フランスとドイツの防衛大手KNDSが、次世代長距離砲兵システム「LORAS(Long Range Artillery System:長距離砲兵システム)」という名前の新たな自走砲を公開しました。
ロケットでもドローンでもない「第三の選択肢」
2026年6月にフランス・パリ郊外で開催された防衛展示会「ユーロサトリ2026」で、フランスとドイツの防衛大手KNDSが、次世代長距離砲兵システム「LORAS(Long Range Artillery System:長距離砲兵システム)」という名前の新たな自走砲を公開しました。
一見すると同じくKNDS製のRCH155系の自走榴弾砲にも見えるこの車両ですが、最大の特徴は異様なまでに長い砲身にあります。
LORASが採用するのは155mm58口径砲。現在、西側諸国の主流となって155mm52口径砲より約12%長く実際に肉眼でその大きな違いが確認できます。
もちろん射程は長く、通常榴弾でも60km以上、特殊弾薬では100km級を目指しています。現在主流の52口径砲の射程が40km前後であることを考えると、その伸び幅は決して小さくありません。
しかし、なぜ今さら「大砲を長くする」のでしょうか。KNDSの担当者は、その理由を「航空優勢はもはや保証されないからだ」と説明します。
ウクライナ戦争では、防空システムの発達によって航空戦力が自由に活動できる空域は大きく制限されました。その結果、敵後方への攻撃は地上発射の間接火力に依存する割合が高まっているそうです。
現在、50~60km先の目標を攻撃する場合、主役となるのはロケット砲やドローン兵器です。しかしロケットは高価であり、ドローンは飛翔時間が長いうえ、防空システムによって撃墜されるリスクもあります。KNDSの担当者は、「現在の徘徊型弾薬は10機中9機が防空システムや対ドローンシステムによって撃墜されている」と指摘します。そして将来、対ドローンシステムが発達すれば、その傾向はさらに強まると予測しています。
そこでKNDSが目を付けたのが、ロケットやドローン兵器がカバーしきれない「中間領域」でした。通常榴弾をそのまま60km先へ届けることができれば、高価なロケットを温存しつつ、大量の炸薬を迅速に送り込むことができます。LORASが狙っているのは、ロケットでもドローンでも埋められない、戦場の新たな空白地帯だったのです。
「最大の防御は装甲ではなく距離」 次世代砲兵の思想
58口径化の目的は、単なる射程競争ではありません。KNDSがLORASで繰り返し強調していたのは、生残性の向上でした。
現在の砲兵部隊は、対砲兵レーダーやドローンによって、かつてない脅威にさらされています。発砲した位置は数分以内に特定され、すぐに反撃を受けることも珍しくありません。そのため、固定式火砲では巧妙な隠蔽が、自走榴弾砲では発砲後に速やかに離脱できることが求められます。このため、履帯(キャタピラ)式よりも装輪式が望まれる傾向にあります。
そこでKNDSが考案した新たな生残性向上策は、車体の防御力や離脱速度を高めることではなく、「敵より遠くから撃つこと」でした。安定して60~80km先から射撃できれば、敵の攻撃圏外に近い位置から火力支援を行える可能性が高まります。58口径化は単なる射程延長ではなく、ウクライナ戦争の教訓を踏まえた、自走砲の生存性向上を目指す最適化だったのです。
また、LORASは単一の車種ではなく、装輪・装軌、有・無人砲塔を含めたシステムファミリーとして構想されています。今回展示された車両は、ドイツ製RCH155の無人砲塔と装軌シャシを組み合わせたものでしたが、将来的にはCAESARのような装輪車両への搭載も視野に入れられています。
さらにKNDSは、その先の未来も見据えています。将来の砲兵は、無人砲兵車両と無人補給車両がペアとなって行動し、射撃速度の向上と、反撃を受けた際の人的被害の抑制を両立することになるかもしれません。担当者は「砲兵は最初に完全自動化される戦闘システムのひとつになるだろう」と語りました。
かつて大砲は「戦場の女神」「戦場の王」と呼ばれていました。絶大な火力を投射して地上部隊を支援するとともに敵を壊滅させ、戦いの勝敗を大きく左右する重要な役割を担っていたからです。近年はミサイルやドローンが長距離火力として戦場で大きな存在感を示していますが、低コストで大量投入できる火砲への需要は依然として高いままです。戦争の様相が変化したといわれる現代でも、戦場で最後に頼れるのは、やはり大砲なのかもしれません。