弾薬庫が空になる!? 米軍が着手した「安い・早い」ミサイル戦略 裏に潜む現代の“消耗戦”のリアル

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高価な巡航ミサイルは強力だが、量産性が悪く数が不足する心配がある――課題に直面したアメリカは、安価なミサイルを大量生産して質と量を両立させようとしています。

イラン戦争で露呈したミサイルの不足

 巡航ミサイルや滑空爆弾など戦闘機に搭載する長距離精密打撃兵器(スタンドオフ・ウェポン)の価値は、もはや「どれほど高性能か」だけでは測れません。戦争が長期化し、ミサイルを何百発、何千発と消費する時代においては、「撃った分を、どれだけ早く補充できるか」が同じくらい重要になってきます。2026年7月15日、アメリカ国防当局が発表した空軍向け低価格巡航ミサイルの大量調達計画は、まさにその現実を突きつけるものです。

 対象となるのは、アンドゥリルの「バラクーダ」、コアスパイアの「迅速適応型低価格巡航ミサイル(RAACM)」、そしてゾーン5テクノロジーズのAGM-188「ラスティ・ダガー」の3種類で、いずれも従来型の高価で高度に作り込まれた巡航ミサイル(数億円)とは異なり、価格を抑え(数千万円)、設計と生産工程を簡素化し、短期間で大量に製造することを狙ったミサイルです。

 アメリカ空軍は生産が本格化すれば、3機種を合わせて年間6000発規模を目指しているとされます。これは精密誘導兵器の量産思想そのものを変えようとする試みだと言えるでしょう。

 背景にあるのは、スタンドオフ・ウェポンの消耗速度に対する危機感です。2026年2月末から始まった対イラン作戦「エピック・フューリー」では、米軍が大量の巡航ミサイルを実戦投入したとされます。

 ある推計では、約4400発を保有していた空中発射型巡航ミサイルAGM-158 JASSMのうち1100発以上が使用されたとされます。わずかな期間の大規模作戦によって、保有弾数の4分の1近くを消費した計算になります。

 JASSMは、派生型(対艦ミサイル型)であるLRASMとあわせて、今後数年間で最大1万1200発の大量調達が予定されていますが、JASSMのような高度なスタンドオフ・ウェポンは、一発一発の能力(射程距離や弾頭威力)が高い反面、製造には時間とコストがかかります。

 戦争の初期に大量使用すれば、戦場では敵の防空網や指揮中枢を破壊できても、その後に「弾薬庫が空になる」という別の問題が姿を現すでしょう。

必ずしも最高水準の性能ではなくてもいい

 ここで登場するのが、低価格巡航ミサイルです。重要なのは、これらがJASSMを単純に置き換える兵器ではないという点です。

 高価な巡航ミサイルには、長大な射程、高度なステルス性、妨害に強い誘導能力など、まさに「一発で大きな価値を生む」性能が求められます。その一方で低価格兵器は、必ずしもすべての能力で最高水準を求めない代わりに、数を揃え、複数方向から同時に発射し、敵の防空システムに過大な負担を強いることを目的とします。

 この構想は、単にミサイルの性能を変えることだけが目的ではありません。アメリカが目指しているのは、調達方式と防衛産業の構造を変えることでもあります。アンドゥリル社は「バラクーダ」を大量生産可能な設計思想で開発し、商用部品を多用するとともに、組み立て工程を簡素化しています。既存の防衛産業が「高性能・少量生産」を得意としてきたのに対し、新興企業を含む新たな供給網によって「安価・大量・反復生産」を実現しようとしているのです。

 これは、中国との長期的な大国間競争を考えれば、極めて重要な転換です。もしアメリカ軍が高価な巡航ミサイルを大量消費し、その補充に数年を要するなら、長期戦になった瞬間に攻撃能力は先細ってしまいます。しかし、年間数千発を生産できる体制が確立されれば、戦争を継続しながら兵器を補充する「持久力」を獲得できます。

 JASSMのような「高価で強力な一発」は決定的な目標に投入する一方で、安価な巡航ミサイルを大量に空へ送り出す。高性能兵器の「質」と低価格兵器の「量」を同時に運用することで、初めて長期戦に耐えられる航空戦力が成立すると考えられています。