“凡事徹底”と“進化” スパイクやユニフォームで日本代表・選手を支える裏方の思い

所得「1億円の壁」問題とは?

 サッカー日本代表をはじめとしたFIFAワールドカップ2026に参加するチーム、選手に携わるのは企業も数多くある。その一つがアディダスだ。

 ユニフォームのサプライヤーとしてはもちろん、選手個人の足元も支える同社。アディダスは今年『F50』の新軽量ラインとして『F50 HYPERFAST EVO』を発売。片足130グラム(27センチ)というFIFAワールドカップで使用される同社スパイクでの過去最軽量を実現し、2年ぶりのフルリニューアルとしてアッパーやアウトソールなどをすべてアップデートしたモデルを契約選手が着用している。さらに、FIFAワールドカップ2026に合わせて『ROAD TO GLORY PACK』をリリースし、『F50』だけでなく、『PREDATOR』『COPA PURE』という同社のスパイクシリーズで統一でデザインを採用して大会に臨んでいる。今大会で「スパイク、ピンク色が多い」という声を聞くが他社のモデル含め、こういった事情がある。

 アディダスジャパンのマーケティング事業本部 金子勝太氏に話を聞くと、「プロ選手、そして一般のプレーヤーの皆さんのフィードバックもたくさん受けた上での製品開発にかなり注力しました。私たちとしてはシューズをどう作っていきたいかという思いから、まずは始まります。軽さによって生み出される素早さ、アジリティーの部分といったところ含め、一回履いたらまた履きたくなる、ずっと履きたいと思っていただけるスパイクを意識した商品開発が『F50』では行われています。スピードプレーヤーに対して与えたいと思う機能性はしっかりと持ちつつ、自信が持てるボールタッチもそうですし、スタッドの形もそうです。しっかりと安定感をもたらすことができて、さらに軽量化もされている。自信をしっかりと持ちつつ、リスクを冒してでも行こうという気持ちにさせてくれるシューズだと思います」と『F50』の手応えを口にするとともに、「僕自身も本社側の担当者たちと開発サイドと話をしているときに心が躍りました」と、シンプルかつ原点回帰的な王道のコンセプトへの自信と喜びを語る。

 軽量が売りの一つではあるが、近年のスパイクはどのメーカーもいかに軽くすることができるかが開発のポイントの一つになっている。一方で重さを際限なく軽くし、0グラムとすることは不可能で、薄型化などにともなう耐久性については表裏一体で気になる部分でもある。金子氏は、「テクノロジーでどう変えていけるかはあると思います。天然皮革から人工皮革にスイッチしていくことも革新的なアイデアの一つですし、新しい技術を採用することに、まずは可能性を感じるところです。今回の『F50』でも、例えばアウトソールの部分において、軽量と耐久性という大切であり、相反する部分をどう進めるかが一番難しいところではありました。新しい素材の開発もそうですし、私の頭の中では到底追いつかない、科学者の皆さんや開発のプロが、数グラムを減らすことに命を懸けていくかが、今後を左右するポイントになると思います。あとは、精密さが大切になると思います。軽さ一つとっても、接合などが少し甘いと余分な部分が出てきて、数グラムの積み重ねができてしまうんです。精密さについて、作り手の皆さんの中で精度を高めていけるか、熟練されていくかも、数グラムを落としていく大切なファクターになると思います。技術や精密さは軽さもそうですし、耐久性の部分においても同じことが言えます。それぞれの職人さんや、作り手の皆さんの本領が発揮されるる部分だと思うので、全員の汗と涙の結晶が一つになっていくと思うと、一人のユーザーとしても楽しみですし、完璧なシューズが生まれることを待っていたいです」と、まだまだ進化の余地はあると話す。

 開発においては技術革新やAIの導入など、飛躍的にスピードアップが図れる可能性がある。金子氏も「速くなっています」と開発のスピード感が増していると認め、「私たちアディダスだけではなく、他社さんもスパイク、サッカーに対する熱量もすごいですし、いち早くうちが何かをやっても、他のメーカーさんはこれをやってくるよね、みたいな感じで、本当に切磋琢磨しながらやっていると感じますし、こういったことがメーカー関係なく、サッカー界を良くしていく、強くしていくことの一つだと思います。いろいろなメーカーさんの新製品を見て、試させてもらって、小売店の皆さんともフラットに話をさせてもらいながら、いつも感心しつつ、自分たちも頑張らなければと思わされています」と競争の中に敬意があり、最終的にサッカー界のためになってほしいと続けている。

 アディダス社で言えば、サッカー日本代表のユニフォームが国内だけでなく、海外でも好評となっている。国内では需要の高まりが止まらない状況だ。「評価していただいていることは、素直にうれしいです。日本でもサッカーを文化にしたいという思いがある中で、私たち自身がアプローチしたい方向性や、その先にいる皆さんへのリーチ、アプローチがしっかりとできていると感じられる結果が出ていると思っていますし、シンプルに日本代表に対する興味・関心が高まっていることを物語っていると思います。どの時代の日本代表のユニフォームコンセプトも、日本らしさや日本特有の何かを感じ取ってもらえるように開発しています。今回のコンセプトは『HORIZON』ですし、それは島国ということや、SAMURAI BLUEの語源にもなっている空と海だったりとかを含めて、日本であることの意味を開発コンセプトに入れているので、特に海外の方たちから、そのコンセプトを通じて日本という国に対して好印象を持ってくれていると感じられますし、いろいろな方に手に取ってもらい、着てもらい、高く評価いただけているのは本当にうれしいです」と喜んでいる。 

 特にアウェーユニフォームが売れていることは連日報じられ、海外からの旅行客も着ている姿をよく見る。しかし今回のモデルだけでなく、近年のアウェーユニフォームは高評価を目にすることが多い。金子氏は、「確かに『ORIGAMI』(2022年ワールドカップ着用モデル)もシンプルなデザインながらも袖に折り鶴のデザインが入っていて。『サンライズ』(2023年女子ワールドカップ着用モデル)もそうですね。珍しいカラーリングと言いますか、日本代表にとってはあまり使ってこなかった色でしたけど、なでしこをモチーフにするといったカラー使いもしてきた中で、日本らしさはデザインの中にももちろん表現されています」と、これまでのモデルを振り返る。

 しかし何よりも「選手の活躍」がもちろん大切だと強調し、「プロダクトは自信を持って『素晴らしい』と言えますが、やはり選手のパフォーマンスがそれを超えるほど素晴らしいので、すべてがつながって、いい形で皆さんの評価にもつながっていると思います」と続ける。

 日本代表の森保一監督は、“凡事徹底”を大切に本大会を戦っている。金子氏にサポート側にも“凡事徹底”が大事かと問うと、「その通りです」と力強く話し、「いつもやっていることしか出ないと思いますし、今のチームにはそれが象徴となっていると思います。選手それぞれが思い思いのプレーができ、そうすれば結果もついてくると思いますし、それがすごく楽しみです。輝いている瞬間や、いい笑顔見たいじゃないですか。喜んでいる姿や最高に弾ける笑顔が一番の楽しみです」と足元やウェアからサポートに徹し、“最高の景色”を見るための一助になりたいと明るく話してくれている。

取材=小松春生