「走行音が似ている」 最高速度120キロ「日本の怪力気動車」 海外にいる“進化版”とは?

2026年、駆け込み事業承継に注目

カナダ最大都市トロントの空港アクセス鉄道では、日本の車両メーカーが製造したディーゼル車両が活躍しています。乗ってみると、日本の「あの列車」と走行音がそっくりでした。

28分で空港と中心部を結ぶ鉄道に「日本製の車両」

 カナダの最大都市トロントの中心部と主要空港を結ぶ鉄道では、日本の車両メーカーが造ったディーゼル車両が活躍しています。乗ると、日本の「あの列車」に似ています。

 国際サッカー連盟(FIFA)のワールドカップ(W杯)2026年北中米大会の開催都市の一つで、カナダ最大都市トロントの中心部と主要空港のトロント・ピアソン国際空港の間を鉄道「ユニオン・ピアソン・エクスプレス」(UPエクスプレス)が30分未満で結んでいます。

 UPエクスプレスは、「GOトランジット」の名称で展開している近郊鉄道と路線バスといったトロント都市圏の公共交通機関を抱える運輸当局「メトロリンクス」が運営。トロントの中央駅であるユニオン駅と、ピアソン空港の第1旅客ターミナルに隣接した駅を28分で直結しています。運賃は12.35カナダドル(約1400円)で、原則として15分間隔で運行されています。

 2015年6月に開業し、スポーツ大会「パンアメリカン競技大会」がトロントで2015年7月に開催された際の空港アクセス鉄道として八面六臂の活躍をしました。ピアソン空港にはエア・カナダの羽田線、成田線、夏季限定の関西線も発着しており、中心部と行き来するにはUPエクスプレスが確実な移動手段となっています。その信頼性を支えているのが、日本の鉄道車両メーカーです。

 というのも、2~3両編成で走るステンレス製ディーゼル列車を造ったのはJR東海子会社の日本車両製造なのです。2026年5月にピアソン空港へ到着した筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が向かったのは、UPエクスプレスの駅でした。

 走行中の音は、JR東海の「あの列車」とよく似ていると改めて思いました。それにはワケがあります。

燦然と輝く車両メーカーの銘板

 高架になったピアソン空港駅は1面2線で、ホームドアを備えています。プラットホームの片側に停車していたUPエクスプレスの両開き扉は開いていましたが、列車折り返しに当たって作業員が車内を清掃しているので待ちます。

「お入りください!」という作業員の声が聞こえたので車内に入ると、カーペットが敷かれた清潔感のある雰囲気で迎えてくれました。航空利用者はスーツケースなどの大きな荷物を抱えていることが一般的なため、扉の脇には大きな荷物スペースを設けています。

 客室の車端部には「NIPPON SHARYO 2013」の銘板があり、日本車両が2013年に製造した車両であることを誇示していました。

まるで新幹線の「Sシート」

「UP」の名称と引っかけて上向きの矢印を描いたまくら付きのクロスシート座席は、背面に収納式のテーブルがあります。折りたたみ式のひじ掛けも付いており、壁面には電源コンセントも用意しています。頭上には読書灯もあり、荷棚は航空機のように扉を開閉して収納するタイプです。

 この列車はWi-Fiも無料で利用できるため、乗車中は東海道・山陽新幹線の「Sワークシート」のように“移動式オフィス”として活用することも可能です。

 なお、座席は固定式で、背もたれを倒すことはできません。方向転換も不可能で、車両の位置によって座席の向きが前後両方あります。座席は硬めの座り心地ながらも快適で、個人的な意見ではリクライニングも方向転換も必要性を感じません。

三重県あたりで聞いた音の「高性能版」エンジン!

 列車が発車し、床下からディーゼルエンジンの力強い音が聞こえてきました。その音は、JR東海の名古屋―鳥羽(三重県鳥羽市)間を走る快速「みえ」に乗った時をほうふつとさせました。

 快速「みえ」に使っているキハ75形も、UPエクスプレスと同じく日本車両が造りました。機種は異なるものの、ともにアメリカのカミンズ製ディーゼルエンジンを搭載しているため似た音に聞こえるようです。

 1両に350馬力のエンジンを2基搭載したキハ75形で運転する快速「みえ」は、最高運転速度が120km/h、表定速度約84km/hと国内最速の気動車快速になったことで脚光を浴びました。これに対し、UPエクスプレスの最高運転時速は約140km/hと輪をかけて“俊足”で、1両に積んでいる760馬力エンジンは「高速のトルク応答、スムーズな動力伝達、静粛な運転を実現するとともに、世界で最も厳しい排ガス規制にも対応した」(カミンズ)そうです。

 UPエクスプレスはしばらく高架の専用線を走った後、地上に降りるとGOトランジットの路線「キッチェナー線」などが使う線路に合流。高層住宅などが並ぶウェストン、トロント交通局(TTC)の2026年2月に開業したばかりの次世代型路面電車(LRT)路線「エグリントン線」と接続するマウント・デニス、ブロアの各駅に停車後、1面1線のユニオン駅に滑り込みました。

激似の「そっくりさん」も

 キハ75形を想起させたUPエクスプレスの車両ですが、実は激似の「そっくりさん」もいます。それはアメリカ西部カリフォルニア州のソノマ・マリン地区鉄道公社(SMART)の車両です。

 UPエクスプレスの車両として日本車両が住友商事とともに提案したのが、両社が既に受注していたSMARTの車両でした。このため外観や内装の色合いは異なるものの、外観はうり二つなのです。

 ただし、カリフォルニア州が温暖な気候なのに対し、トロントの冬は氷点下20度に達する日も。対策としてUPエクスプレスの車両は暖房機能を強化し、積雪時にスリップを防ぐなどの寒冷地仕様に仕上げています。
 国際線の長旅を終え、異国の空港に降り立つとどうしても疲れがどっと出ます。そんなときに中心部へ一本で向かえる列車が待ち構えており、清潔で快適な座り心地の日本メーカー製車両だと一気に安らぎます。

 UPエクスプレスの「UP」は駅名のユニオンと空港名のピアソンの頭文字ですが、導入後に空港アクセスの利便性と快適性、乗車時の気分をいずれも「UP(アップ)」させたのは間違いありません。