現代の航空戦において、1発数億円もする精密誘導兵器の「枯渇」が深刻な問題となっています。その解決策としてアメリカ軍が開発を進めているのが、1発約4000万円という格安の巡航ミサイルAGM-188A「ラスティ・ダガー」です。
巡航ミサイルと誘導爆弾の“中間”を目指す
2026年4月、アメリカ空軍は開発中の新型空中発射巡航ミサイルAGM-188A「ラスティ・ダガー(Rusty Dagger)」の試験映像を公開しました。AGM-188Aの背後にある構想は極めて野心的です。もし計画が成功すれば、航空戦力の運用思想に新たな可能性を秘めています。
そもそも、現代戦闘機はより高価になり、搭載する精密誘導兵器も複雑化し続けています。例えば長距離巡航ミサイルは優れた攻撃能力を発揮する一方で、1発あたり数億円という価格が珍しくありません。敵の防空網を回避しながら数百km先の目標を攻撃できる能力は魅力的ですが、その代償として兵器は少数精鋭化し、大規模戦争では弾薬の消耗が深刻な問題となります。
こうした状況に対するアメリカ軍の回答の1つが、「長距離攻撃兵器(Extended Range Attack Munition:ERAM)」および「低コスト量産型兵器群(Family of Affordable Mass Munitions:FAMM)」プログラムです。これらの計画は高価な巡航ミサイルと安価な誘導爆弾の中間に位置する新たな攻撃兵器を生み出し、航空攻撃の費用対効果を劇的に改善しようとする試みです。
これまでの巡航ミサイルより一桁低い価格
AGM-188A「ラスティ・ダガー」はこのプログラムにおける有力候補の1つであり、その要求性能は明快です。既存の誘導爆弾の弾頭よりも小さな爆弾を約450km先まで運搬できること。つまり戦闘機が敵防空圏の外側から兵器を発射し、安全距離を保ったまま攻撃を実施できる能力が求められています。
現代の防空システムは長射程地対空ミサイルと高性能レーダーによって構成されており、戦闘機が目標上空へ進出するリスクは年々増大しています。航空優勢を完全に確保できる状況はむしろ例外となりつつあり、攻撃機の生存性を高めるためにはスタンドオフ攻撃能力、すなわち敵の射程圏外から攻撃を加えることが不可欠です。AGM-188Aはまさにその需要に応える兵器と言えるでしょう。
しかし、AGM-188Aの真価は射程ではありません。最大の特徴はその驚異的な低価格にあります。
アメリカ軍が示している目標調達価格は約25万ドル、日本円で4000万円程度とされています。これは従来型巡航ミサイルの価格と比較すると実に一桁低い水準です。数億円級の兵器を消耗することに慎重にならざるを得なかった従来の航空作戦に対し、AGM-188Aは「大量に撃てる巡航ミサイル」という新しい選択肢を提示します。
ウクライナ空軍が強い関心
こうした構想は、近年の戦争が示した厳しい現実から生まれました。高性能兵器は戦術的には優秀であっても、長期戦においては生産能力とコストの壁に直面します。特にロシア・ウクライナ戦争では、精密誘導兵器の消耗速度が平時の生産能力を大幅に上回ることが明らかになりました。どれほど優れた兵器であっても、必要な数を確保できなければ戦争には勝てません。
そのため現在のアメリカ軍は、「十分な性能を持つ兵器を大量配備する」方向へと重心を移しつつあります。「ラスティ・ダガー」はその象徴的存在と言えるでしょう。
試験は現在F-16戦闘機を用いて進められていますが、その将来性はアメリカ軍だけに留まりません。特に強い関心を示しているのがウクライナです。
ウクライナ空軍は既存のMiG-29戦闘機への統合を希望しているとされます。もし実現すれば、旧ソ連製戦闘機であっても数百km離れた目標を精密攻撃できる能力を獲得することになります。これは比較的高性能なF-16や「ミラージュ2000」といった西側製戦闘機を使用せずとも、既存戦力の価値を大きく向上させる可能性を意味しています。
2026年6月には既にAGM-188Aがウクライナへ供与され、実戦投入されたとの情報が流れました。詳細は依然として不明ですが、もし事実であれば、開発段階の兵器が異例の速さで戦場へ投入されたことになります。これはアメリカ軍がAGM-188Aに対して抱く期待の大きさを示していると言えるでしょう。