方針決定は2027春 終局を迎える「JR超赤字路線」結論先送り? “次”を模索する動きも

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全国初の「再構築協議会」が設置されたJR西日本芸備線。沿線自治体やJRなどが存廃を含めた議論を始めていますが、その実態はどうなっているのでしょうか。今後を見据えた独自の動きも出ています。

全国初「再構築協議会」の対象 期限は来年春まで

 JR各社の赤字ローカル線の存廃の議論が、全国で話題になっています。JR東日本久留里線と津軽線の一部区間は2027年春の廃線でほぼ決まりです。吾妻線、大糸線、木次線、釧網本線、宗谷本線など、極端に利用の少ない路線の先行きに不透明感が漂っています。人口減と過疎化、経済構造の変化の中、JRの地方路線の多くは利用が低迷し、しかし国や自治体からまともな支援を受けられないまま半ば放置されています。

 そんな中、全国で注目されているのがJR西日本の芸備線です。

 同線の東側になる備後庄原(広島県庄原市)~備中神代(岡山県新見市)間68.5kmの利用は1987年比でわずか1割に落ち込み、かなり以前より存続が危ぶまれていました。JR西日本は2023年10月、備後庄原~備中神代間について、国土交通省に地域交通法に基づく再構築協議会の設置を要請し、2024年3月より沿線自治体や学識経験者などと協議を始めました。これは全国初のケースです。

 協議会は3年以内を目安に、再構築方針を作成します。期限は2027年春。そこでどのような議論が交わされているでしょうか。

利用者は40年前の1割 けど「賑わうとき」もある

 まずは芸備線の経営指標を見ましょう。2024年度の輸送密度(平均通過人員)は備中神代~東城間で81人/日、東城~備後落合間で同19人、備後落合~備後庄原間で同76人です。同じ広島県の可部線が同1万7093人なのと比べると悲惨な状態です。

 現在の運行本数は、備後庄原~備後落合間で4.5往復、備後落合~東城間3往復、東城~新見間6往復です。30年前と比べると半減しています。キハ120の1両編成が行き来しています。

 途中の備後落合駅は、芸備線と木次線の接続駅で、往年は140人超の国鉄職員が勤務し、夜行列車や貨物列車も行き交うジャンクションでした。しかし、周辺の人口も鉄道利用者も大幅に減り、今は無人駅です。

 そんな「山奥の秘境駅」も14時台になると賑わいを取り戻します。芸備線三次発が2番線に、新見発が3番線、木次線が1番線に到着し、乗換客が駅構内を行き来します。筆者が6月の週末に訪問した日だと3列車あわせて50人ほどの利用者がいました。この時間帯はそこそこ賑わい、国鉄OBの方がボランティアで備後落合駅の由来について説明したり、物販の販売が行われたりします。

 秋の紅葉シーズンは立ち客がいる列車もありますが、平日だと利用はもっと少ないです。朝や夜の便だと乗客数人、無人のときもあります。閑散期はさらに利用は少なくなります。

 芸備線のウィークポイントとして、最高速度25km/h制限となる「常時徐行」区間の存在があります。続出した落石・土砂崩れの防止策として20年前から始まった施策で、危険箇所で徐行運転を繰り返すのです。これは保線のコストカットのための苦肉の策です。雪や大雨でもよく運休しています。保線をする予算も人も足りないようです。

主要なお客「高校生」たちの利用も明暗 バス会社は独自施策を展開

 気になるのが芸備線の地元の利用状況です。

 平日朝夕の芸備線を乗るとわかりますが、岡山県新見市にある野馳駅など4駅から新見駅へ向かう通学生は毎朝20~30人ほどいます。

 一方、広島県の庄原市東城町エリアの高校生たちはほとんど芸備線を利用しません。筆者は2024年5月の平日に東城駅5:45発の備後落合行きに乗りましたが、高校生の乗車は、東城駅で0人、途中駅1人だけでした。この列車だと東城駅から備後庄原駅まで1時間40分。かなり不便です。

 興味深いのは、備北交通です。庄原市を拠点とするバス会社で、庄原市~広島市間の高速バスを1時間ごとに運転するなど意欲的な取り組みを続けています。注目したいのが、東城~庄原間の高速バスを利用できる企画定期券「通学得々パス」です。

 東城町エリアの若者は高校時代に寮生活を過ごす割合が高いのですが、生徒にとっても保護者にとっても負担になっていました。高速バスだと東城駅前7:20発、庄原駅8:00着、所要40分と芸備線より早くて便利でしたが、以前の定期券代は月3万6000円でした。

 そこで同社は、地域貢献のため2022年から「通学得々パス」を販売し、定期券代を1万5000円に値下げしました。芸備線の通学定期1万1970円と比べてもそこまで高い値段ではありません。定期利用者は8人から17~23人に増加。月曜朝や金曜夕方は寮生の利用もあるのでバスを中型から大型に変更しました。

 また、備北交通は西城地区~庄原間で路線バスを運行しており、JR定期券を持つ高校生へ並走区間のバスに乗れる「備北学生応援パス」(1000円/月)を販売しています。JR通学定期客が庄原・三次地区の市内中心部のバス乗り放題となる「ちょこっとパス」(500円/月)もあります。

 同社担当者によると「高校生が公共交通機関に親しむ機会を作りたい」との気持ちでスタートした企画だそうです。芸備線の存廃問題とは無関係な独自施策で、JR西日本や自治体からの財政支援はありません。

新見の高校生も「バスを評価」

 芸備線再構築協議会は2025年度から鉄道活性化の実証事業をスタートしました。潜在的な需要を掘り起こし、地域経済効果などを確認するための施策です。

 中心は、観光客の誘致策です。週末に臨時快速「庄原ライナー」の運転など増便を行い、観光スポットへの連絡バスも走らせました。多い日だと1便あたり40~50人の利用がありました。

 ただ、観光客の多くは芸備線の乗車を目的としているため、庄原市・新見市での消費行動に繋がりにくいとのアンケート結果もあります。増便を恒久化するためには9億円、年間運営費2300万円との試算も出ました。また、徐行運転を解消するための落石対策の強化策は必須ですが、42.3億円の投資が必要と試算されました。

 実証実験の結果はどうだったのでしょうか。

 2026年3月の再構築協議会では、増便やイベント開催、二次交通となるバス運行などの費用に8.3億円かかり、経済効果は4.3億円と報告されています。積極策に転じても費用対効果は限定的でした。

 さらに、2026年度の実証事業が6月よりスタートしました。平日、沿線4区間でバスなどを運行し、従来通り運行する芸備線との比較をします。観光客向けのバスの運行も実施します。

 注目されたのは、新見市役所~野馳~東城駅前間で設定した5往復のバスです。新見市の高校や病院、商業施設まで直行し、運賃は100~600円で、高校生以下は半額。芸備線の定期券やきっぷがあると無料で利用可能です。高校生からも直通の利便性が評価されています。新見市内の需要は、バス輸送でまかなえるのも正直なところです。

 2026年春、岡山県知事は、芸備線の協議について2027年3月末までに方針を示すのが妥当と発言しました。一方、広島県知事は「スケジュールありきとせず、丁寧に議論を進めることが必要」と発言し、上下分離方式や第三セクター化について否定しました。広島県が長年議論を避けてきたのに強気な発言です。

「残りの区間」も失いかねない 芸備線問題の本質

 近年、広島市役所はJR可部線延伸、広島電鉄広島駅直通、バス事業者の共同運営など公共交通に意欲的な取り組みを行い、JR西日本も新型227系273両の広島地区投入で500億円以上かけました。一方、広島県庁は、道路整備、広島空港の利用促進、クルーズ船誘致には熱心ですが、JR在来線については無関心です。

 庄原市は2026年度予算でバスや乗り合いタクシーなど地域公共交通路線に3.1億円を計上しましたが、芸備線関係の予算はわずか0.2億円です。地域住民が「日常の移動手段」として鉄道を利用していない現実ゆえに、市政での優先順位が低いのでしょう。

 べき論で言うなら、「JR西日本が芸備線を鉄道で存続すべき」なのでしょう。昭和末の国鉄改革を巡る議論があります。ローカル線へのノスタルジー、黒字の大企業へ複雑な思いを持つ人もいるでしょう。

 ただ、利用者数が40年前の10分の1になったのに、当時の観点で超赤字路線の議論をすべきなのかという指摘もあります。今後20年で、生産年齢人口が都市部も含めて急減することを踏まえると、大都市路線や新幹線の黒字で地方の赤字を穴埋めする内部補助モデルでは長続きできません。

 芸備線の将来を考えると、残りの広島~備後庄原間も安泰ではありません。

 広島市内に位置する広島~下深川間の輸送密度は8829人と利用は比較的多く、昼でも毎時2往復運転されています。ただ、主力は鈍足の国鉄型車両キハ47で、所要時間はかかります。行き違い設備の増設、新車導入など改善すれば地域の発展に寄与する可能性はあります。兵庫県が姫新線高速化に税金を投じて利便性をアップさせた事例が参考になります。

 そして下深川~三次の輸送密度は1001人、三次~備後庄原間で同370人。現状でも国鉄時代に廃線の基準となった同4000人という物差しを大幅に下回る危機的な状態です。広島県や庄原市が優先して考えるべきなのは、まだ利用がある芸備線備後庄原以西をどう残すのか、まちづくりにどう活用するのかだと思います。

 北海道など他地区でも同じなのですが、JR各社をスケープゴートにして、結論を先送りしても状態は悪化するだけです。知事ら首長は「国がなんとかしてくれ」と主張しますが、誰も具体的に動かないから何も変わらない。鉄道輸送を充実させても選挙の票に繋がらないから消極的なのかもしれませんが、本当になんとかならないのでしょうか。