JRにグリーン車があるように、私鉄特急の一部にも上級クラスの座席が存在します。いずれも豪華な設備が特徴です。私鉄特急の上級クラスについて紹介していきます。
特別席の始祖は東武
JRの在来線特急や新幹線には、グリーン車やグランクラスといった上級クラスが存在します。私鉄特急も、モノクラスが多いものの「スーパーシート」や「プレミアムシート」といった上級クラスを備えた特急列車が存在します。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)が知る限り、私鉄特急用車両の特別席としての元祖は、東武鉄道の貴賓・展望車であるトク1形500号です。1929(昭和4)年に貴賓車として製造されたこの車両は、定員8人の展望室兼食堂を備え、オープンデッキの展望台も付いていました。また、料理室とボーイ室もあり、定員20人の豪華車両でした。1930(昭和5)年から特急列車に連結され、一般売りされるようになります。
同時期の1930~1931(昭和5~6)年には、参宮急行電気鉄道(現・近鉄)のデトニ2300形に側廊下式の個室が設置されました。定員3人用が2室、定員6人用が1室あり、3人用個室は仕切り壁を動かして1室にもできました。これが私鉄特急で最初の個室設備と思われます。
戦後の1961(昭和36)年に開業した伊豆急行では、国鉄乗り入れのためにグリーン車が連結されました。グリーン車は高級志向に合わせて、1987(昭和62)年に「ロイヤルボックス」に進化します。大きな側窓を備え、女性乗務員が大理石のカウンターテーブル越しにコーヒーなどを提供するサロンのような空間でした。「ロイヤルボックス」は1990(平成2)年から看板車両「リゾート21」にも連結され、トンネル内で天井が星空となる演出もありました。
戦後、私鉄特急は爆発的に増えましたが、車内は豪華でもモノクラスが基本でした。1978(昭和53)年に登場した近鉄30000系は、2階建て構造で階下に半個室が設けられました。しかし、特別室ではありませんでした。
明確に上級クラスが設けられたのは、1988(昭和63)年登場の近鉄21000系「アーバンライナー」です。6両編成のうち2両が「デラックスシート車」とされ、1+2列のゆとりある座席配置で座席幅485mm、座席間隔1050mmのリクライニングシートが並びました。
そして1990(平成2)年登場の東武100系「スペーシア」には、4人用個室が設置されました。大理石のテーブルを備え、薄手のレースのカーテンと厚手のドレープカーテンがある豪華な室内には、極上のソファが置かれました。この個室は、後にJR線に乗り入れると「グリーン個室」扱いとされました。
1991(平成3)年には、小田急が20000形「RSE」を登場させます。2階建て車両2両を連結し、2階を「スーパーシート」としました。「小田急のファーストクラス」と銘打ち、座席配置は1+2列で座席間隔1100mmのリクライニングシートでした。座席ごとに客室乗務員を呼ぶコールボタンも備えられていました。また、1両は階下に4人用セミコンパートメントが3室設けられました。
近鉄から続々と豪華特急が登場、満を持して南海も
1994(平成6)年登場の近鉄23000系「伊勢志摩ライナー」には、上級クラスが二つ設定されます。座席配置が1+2列の「デラックスカー」と、半個室の「サロンカー」です。「サロンカー」は2人区画と向かい合わせ席の4人区画があり、背もたれが非常に高いという特徴がありました。側窓も特大で快適な区画です。
同年、関空特急の南海50000系「ラピート」に、座席配置1+2列の「スーパーシート」が設置されます。6両編成中2両が「スーパーシート」で、座席幅480~485mm、座席間隔1200mmのリクライニングシートが並びました。当初はアテンダントのドリンクサービスも行われましたが、運行時間が短いため利用客は多くありませんでした。
2002(平成14)年には、近鉄が21020系「アーバンライナーnext」を投入します。デラックスカーは1両で、座席間隔は1050mm。プライベート性を重視して1+1+1列の座席配置となりました。ゆりかごのように包まれるリクライニングシートが特徴で、背もたれが22度傾くと、座面も呼応して9度沈み込むという設計でした。
同年、富士急行(現・富士山麓電気鉄道)は2000系「フジサン特急」を登場させます。JRで全席グリーン車だった「パノラマエクスプレスアルプス」を改造した車両で、リクライニングシートや展望席を備えました。個室も設置されています。
2011(平成23)年、近鉄は26000系「さくらライナー」を改造し、デラックスシートを設置しました。改造での上級クラス設置は珍しいことでした。
歴史を変えた近鉄「しまかぜ」
そして2013(平成25)年、私鉄特急の歴史を動かすほどの豪華車両が出現します。近鉄50000系「しまかぜ」です。通常の座席が「プレミアムシート」で、座席間隔は1250mm。白い革製で、新幹線グリーン車以上の抜群の居住性でした。
「しまかぜ」は洋風個室、和風個室、グループ席も設けられました。個室は現在も予約困難なほど人気です。温かい食事が楽しめる「カフェ車」も連結しており、2026年現在も昼行特急で最高レベルのサービスを誇ります。
2014(平成26)年に富士急行は、8000系「フジサン特急」の1号車を特別車両とし、展望スペースを設置しました。そして2016(平成28)年には8500系「富士山ビュー特急」を登場させます。1号車はカフェのような内装の特別車。列車によっては極上のスイーツも楽しめる空間です。
2020年に近鉄が登場させたのが、80000系「ひのとり」です。編成の両端が「プレミアムシート」で、座席間隔1300mm。革製の電動リクライニングシートが1+2列の配置で並ぶ豪華な仕様です。デッキ部分には「カフェスポット」と称する、挽きたてコーヒーなどを提供する自販機があります。車両基地で電源を落とす鉄道車両では、自動販売機の品質管理が難しいにもかかわらず、その問題をうまく解決した設備です。
近鉄は2022年にも観光特急「あをによし」を登場させます。通常座席が1+1列で向かい合わせの固定式クロスシートという豪華仕様に加えて、特筆すべきは2号車に設けられた3~4人用半個室「サロンシート」です。JRも含めた歴代特急車でも最大級の側窓を設置し、ゆったりとしたソファで至福の時間を過ごせます。
2023年、東武がハイグレード車両を登場させます。N100系「スペーシアX」です。1号車は展望ラウンジの「コックピットラウンジ」。飲料を楽しみつつ、上質なカフェにいるような時間を過ごせます。2号車は座席配置1+2列の「プレミアムシート」。バックシェル付きのリクライニングシートを備えています。
6号車は定員4人の「コンパートメント」と、定員7人の「コックピットスイート」です。特に「コックピットスイート」は運転席の後ろで、車両幅いっぱいの空間を独占できることから、瞬時に売り切れるほどの人気です。
「コックピットスイート」は私鉄特急の頂点というより、JRも含めた昼行特急の頂点ともいうべき超豪華設備で、今後の上級クラスの指標でもあると感じられます。座席鉄の筆者としては、上級クラスのさらなる進化を期待します。