腕利きパイロット、あえて“縛りプレイ”! 戦闘機150機持つナゾの民間会社の意外すぎる仕事内容とは

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世界の空軍では訓練で敵役を演じる専門部隊が存在しますが、その役割を民間企業が請け負う「民間アグレッサー会社」があります。カナダのトップエイセス社は世界で初めて民間でF-16戦闘機を運用し始めた会社として有名ですが、どのような人々が操縦しているのでしょうか。

民間企業で戦闘機を運用する会社って何?

 世界の空軍では、訓練で敵役を演じる専門部隊が存在します。米空軍では「アグレッサー部隊」、航空自衛隊では「飛行教導群」がその代表例です。こうした役割を民間企業が請け負うケースもあり、それらは海外で「民間アグレッサー会社」や「民間レッドエア」などと呼ばれています。

 カナダに本社のあるトップエイセスは、そんな民間アグレッサー会社の中でも世界で初めて民間でF-16「ファイティング・ファルコン」戦闘機の運用を始めた会社として有名です。

 同社のF-16は元々イスラエル空軍で使われていた機体で、旧式化したために退役して保管されていたものを購入し、それをアグレッサー業務で使えるようにレストア・改良したものです。

 特に注目される改良は、同社がアグレッサー業務の為に開発したアドバンスド・アグレッサー・ミッション・システム(AAMS)と呼ばれる装備品パッケージで、AESAレーダー、IRST(赤外線探索追尾装置)、HMCS(ヘルメット搭載型照準装置)、データリンク、兵器シミュレーション装置、電子戦ポッド運用能力が追加され、F-35やF-22向け訓練で、より実戦的な脅威を再現することを目的とした能力を備えています。

 同社では約30機のF-16をイスラエルから購入しましたが、それ以外にもA-4「スカイホーク」や仏独共同開発のジェット練習機「アルファジェット」等を保有しており、その総数は150機以上にもなります。

 その規模は、一部の小規模空軍に匹敵すると言っても大げさではありませんが、その一方でそれを操縦するパイロットはどんな人々なのでしょうか。

パイロットは全員が元軍人

 トップエイセスの担当者によると、同社の民間籍戦闘機を操縦するのは会社と契約した民間人ですが、そのすべてが空軍を退役した元戦闘機パイロットだそうです。しかも、単なる元戦闘機パイロットというだけでなく、軍人時代にはパイロットを教える教官やアグレッサーパイロットだった経歴を持っているベテランばかりだといいます。

「アメリカ空軍との契約で活躍しているパイロットは、全員がアメリカ軍でパイロットだった人々です。彼らは現役時代に何千時間もの戦闘機による飛行経験を持っており、その多くがF-16の操縦経験があります。ですから、我々の保有するF-16の操縦訓練も、数時間の慣熟飛行だけで済みます」(トップエイセス社員)。

 パイロットをゼロから教育するには膨大な費用と時間が必要であり、それを民間企業が負担するのは簡単なことではありません。トップエイセスでは軍を退役したパイロットを再雇用することで、これに対応しているのです。

 ただし、F-16の操縦経験があれば、だれもがトップエイセスのパイロットになれるわけではありません。同社の業務は、訓練において敵役を演じることであり、そこで働く人材にもその能力が求められます。そして、現代のアグレッサー任務は、単独のパイロットの技量に依存したものではなく、より高度で複雑化しており、操縦以外の知識と経験が必要とされるからです。

敵役の演じ方にも台本がある?

 トップエイセスの業務は自前の戦闘機とパイロットを軍に提供することであり、アグレッサー任務のすべてを担当するわけではありません。訓練においてより実戦的な状況を再現するには、軍隊が想定している仮想敵国の戦闘機や戦い方を再現する必要があり、その詳細は軍が保有する運用情報や訓練設計に関わる内容であり、民間企業だけでは再現できません。

 このため、民間アグレッサー会社は、訓練においてどのような飛行や模擬戦闘を行うかを、軍隊から指示を受けるそうです。

「敵空軍を再現するという業務では、我々の役割は“空軍から指示されたこと”を行ないます。つまり、空軍側が“この戦術をやってほしい”や“この飛行プロファイルで飛んでほしい”といった行動指示や、訓練中に“こういう反応をしてほしい”といったものもあります。我々は元軍所属のパイロットで膨大な経験がありますが、民間企業になった時点で敵対脅威に関する最新情報は得ることはできません。ですから、具体的な脅威プロファイルは、業務を行なう空軍側から提供されます」(トップエイセス社員)。

 ベテランパイロットが操縦するアグレッサー戦闘機といえば、自身の高い技術で若いパイロットを鍛え挙げるというイメージがありますし、映画『トップガン・マーベリック』では、序盤に同様の訓練シーンが描かれています。

 しかし、現実には現代の空中戦はパイロット一人の技量で戦況が左右されることはなく、最新技術と戦術に基づいた組織戦闘が基本です。仮想敵国軍がどのような装備を使い、どのように戦うかという情報は、軍内部でも限定的に共有される性質のものです。

民間人でも戦闘機操縦の技量が生かせる仕事

 アグレッサー業務で飛行するパイロットには、高い操縦技量はもちろんのこと、軍の要求を理解して、その敵役を演じられる能力も求められるのです。

「業務において我々は主役ではありません。それは訓練に参加する空軍のパイロットであり、我々はより良い訓練を提供するために存在しています」(トップエイセス社員)。

 戦闘機パイロットという職業は、これまで軍を退役すれば、その経験を活かせる場は航空会社や教育分野など限られていました。しかし、民間アグレッサー会社の登場によって、何千時間もの飛行経験や戦術知識を持つベテランたちが、再び軍の訓練を支える側として空を飛び続ける道が生まれています。

 ちなみに、現在のトップエイセスは、F-16での請負業務はアメリカ国内でのみ行なっていますが、それ以外にも欧州やカナダなどでも業務を行なっています。あくまでも仮定の話ですが「日本の航空自衛隊と契約が成立した場合、日本人の戦闘機パイロットを雇用する可能性はありますか?」と聞いたところ、同社の社員は次のように答えてくれました。

「もし航空自衛隊と契約し、アグレッサー役として我が社が支援することになれば、我々は航空自衛隊にこう聞くでしょう。『日本人の元戦闘機パイロットを使いたいですか? それとも海外パイロットを連れてきますか?』と。つまり、それはクライアント次第です。我々の世界中で行なっている契約では、自国のパイロットを望む国もあれば、そうでない国もあります。」(トップエイセス社員)。

 そして、最後にこう付け加えてくれました。「多くの空軍の出身者は、退役後も心の奥底では今でも空軍軍人であり、自国軍の支援をしたいと思っています。彼らがそうできるように、我々は別の道を提供しているのです」(トップエイセス社員)。

 軍を退役したあとも、空を飛び続ける。そんな戦闘機パイロットの新しい働き方が、海外では少しずつ広がっています。民間アグレッサー会社は、最新戦闘機を支える訓練インフラであると同時に、ベテランたちの経験を次世代へ受け継ぐ場にもなっているようです。