路線バスの優先席は、どれも前の方に設置されています。フリースペースもそうですが、この設置にはどういうルールがあるのでしょうか。
“前より”に設置する理由と工夫
路線バスに乗ったことがあれば、ピンクや水色のような、他とちょっと色の違う座席がいくつかあることに気づくでしょう。これらの席は「優先席」、事業者によっては「優先座席」「シルバーシート」などと呼ばれる席にあたります。
バスは、高齢者や妊婦、ケガをした人、小さな子ども連れの人なども乗客として利用します。そういった人たちの座れる機会が増えるよう優先席は設けられていますが、よく見ると席の配置にはある共通点があります。路線バスでは、乗降口に近い前寄りの位置に優先席が設けられることが多く見られます。空き具合によりますが、後ろのほうにも座席は存在します。なぜ「前のほう」だけに優先席が設定されているのでしょうか。
じつはここには、バスの設計思想とバリアフリーの考え方が、しっかり織り込まれているのです。
もっとも大きな理由は、シンプルに「乗降口から近いこと」です。国土交通省が定めた「標準仕様ノンステップバス認定要領」では、バスの優先席は乗降口に近い位置に設けることが示されています。バス車内は走行・駐停車中構わずに揺れることがあり、足腰に不安のある人が通路を奥まで移動するのは負担が多く、怪我を負う可能性も出てきます。乗降口の近くに優先席があれば、乗ってからすぐ座りやすく、降りるときの移動距離も短くできます。
もうひとつ重要なのは、前寄りの低床部は、段差が少なく移動しやすい区画になっていることです。ノンステップバスでは、乗降口付近から車いすスペースなどへは、移動しやすいように低床の構造となっています。この低床部に近い場所へ優先席を置くことで、乗り降りや車内移動の負担を抑えやすくしているのです。
乗降口に近い場所への設置は、乗り降りの動線が短くなる点もメリットです。優先席の近くには、利用しやすい位置の降車ボタンや手すりなども設けられています。国の標準仕様でも、優先席は乗降口に近い位置に設け、原則として前向きに配置するルールが設定されているのです。
2015年に変わった「優先席設置のルール」
国土交通省は2003年にノンステップバスの標準仕様を策定し、2004年1月から「標準仕様ノンステップバス」の認定を行っています。高齢者や障害者などにとって、より利用しやすいバリアフリー車両を普及させるためのルールです。
大きな変化があったのは2015年です。標準仕様ノンステップバス認定要領が一部改正され、「高齢者等の乗車性に配慮した優先席の前向き配置」が示されました。従来は、横向き優先席などがありましたが、これだと立席スペースが減ることや、急ブレーキ時に身体が大きく振れる恐れがあることが指摘されていました。それを踏まえて、この改正以降の標準仕様では、原則「前向き配置」とされています。
あわせて、ベビーカーをたたまずに乗れるフリースペースの設定や、車いす用スロープの簡易化なども盛り込まれました。こうした標準仕様の見直しによって、乗降口に近い低床部へ、優先席やフリースペースなどをまとめて配置する考え方がより明確になりました。
ノンステップバスは、乗降口付近から車いすスペースなどへ移動しやすい低床部を確保する構造が基本です。一方、後部には段差やスロープが設けられる車両もあります。つまり、車内のなかでも段差が少なく、乗降口から移動しやすい区画は前寄りにあります。歩く距離、段差、手すりや降車ボタンの位置。そうした要素が、「優先席は乗降口に近い前寄りが使いやすい」という配置につながっているわけです。
現在の路線バスは、利用しやすい位置に降車ボタンが取り付けられ、手すりの設置や通路の配色なども工夫されています。日々バリアフリー要素の向上に向けた努力が、積み重ねられているのです。