バスの一番前の席に座ると、運転士がハンドル脇のレバーをカチカチと操作しているのを見たことはないでしょうか。実はあれ、20トン近い車体を安全に止めるための「補助ブレーキ」なのです。
足踏みだけでは制動力が低下? 巨大な車体を支える補助ブレーキ
乗客と荷物を満載した大型観光バスの重量は、時に20トン近くに達します。これほどの巨体を、タイヤ部分の摩擦(フットブレーキ)だけで止めようとすると、ブレーキシステムには大きな負荷がかかります。
特に長い下り坂でフットブレーキを使い続けると、摩擦熱によってブレーキパッドが過熱し、制動力が低下する「フェード現象」や、ブレーキフルード(液)が沸騰して制動不能に陥る「ベーパーロック現象」が生じるおそれもあります。
こうした熱によるトラブルを回避し、減速性能の低下を防ぐため、バスにはエンジンや駆動系に直接制動力をかける装置が備わっています。運転士がハンドル脇のレバーでカチカチと操作しているのは、主に「排気ブレーキ」や「リターダー」と呼ばれる補助ブレーキです。
これらはフットブレーキの負担を大きく減らせる頼もしい装置ですが、それぞれに特性や限界があるため、長い下り坂などでは適切なギヤ選択(エンジンブレーキ)とあわせて使うことが重要になってきます。エンジンの排気を利用するものから、電磁誘導の力を利用するものまで、その仕組みは多岐にわたります。
「排気」から「磁力」まで! 運転士が使い分けるメカニズムの妙
代表的な補助ブレーキのひとつが「排気ブレーキ」です。排気管にバルブを設けて排気側に抵抗を与え、エンジンに制動力を発生させる仕組みで、大型車では広く使われています。
さらに、より強力な制動力を発揮できるのが「リターダー」です。これには、流体の抵抗を利用する方式(流体式)や、電磁誘導による磁力を利用する方式(電磁式)などがあります。
リターダーは車種や方式によっては強い減速力を発揮でき、フットブレーキの使用頻度を減らすのに大きく役立ちます。運転士は路面の状況や勾配、乗客の乗り心地を考慮しながら、これらの装置を段階的に使い分けているのです。
こうした補助ブレーキの存在は、単なる運転の負担軽減ではなく、摩擦ブレーキの過熱を防ぎ、必要なときに十分な制動力を発揮しやすくするための知恵でもあります。
いざという時の急ブレーキに備え、普段の減速は補助ブレーキを有効に活用しつつ、フットブレーキだけに頼らない。バスには、乗客の命を守るための安全対策が徹底されていたのです。