好きなアイドルなどを応援する「推し活」が、シニア世代にも広がっている。昭和名曲の配信ライブに声援を送ったり、死にまつわる歌に心を寄せたりするなど、推しは人さまざま。専門家は「生きがいにつながっている」と話している。
「亮君、亮君!」。東京都葛飾区のデイサービス施設で4月8日、利用者らが応援用のポンポンやうちわを振り、テレビに身を乗り出した。声援の先にいるのは、ライブ配信する「懐メロプリンス」の中田亮さん(37)。「青い山脈」など往年の名曲を熱唱し、この施設の名前を呼んだ瞬間はひときわ沸いた。利用者の中沢かづ子さん(86)は中田さんのオリジナルタオルを手に、「目がかわいい。優しい人柄が出ている」と笑顔で話した。
中田さんは550曲の昭和歌謡曲のレパートリーを持ち、配信ライブには約300の高齢者施設からアクセスがある。都内で昨年開かれた公演には、高齢者が車いすを連ね訪れた。中田さんは「皆さんをオンラインで映しながらNHK紅白歌合戦に出たい」と夢を語る。
孤独死など「死」をテーマに歌うのは、シンガー・ソングライターの雨本ふみさん(39)だ。「さんずの川は背泳ぎで渡るつもりでいます」。3月下旬、杉並区のバーで客がギターの弾き語りに耳を傾けた。10年前からライブに通う男性(67)は「根底には愛がある」と話し、知人にCDを配り宣伝している。
「どんなに楽しかった人生も終わる」との思いで曲を作り、聞く人の年齢は意識しないという雨本さん。ただ「年を重ねた人の方が反応が良い」といい、ライブ会場では「もうすぐさんずの川です」と笑顔で声を掛けられるという。
推し活に詳しい愛知淑徳大の久保(川合)南海子教授は「高齢者と推し活は親和性が高い」と分析。仕事や子育てを終えた世代にとって、新たな人間関係や先の予定をもたらし、生きがいや張り合いにつながるからだ。推しの成長や変化を見守る楽しさが生まれるのも相性の良さという。
高齢者の推し活は、外出が困難でもオンラインで楽しめるため、今後さらに広がるとみられる。一方で、非日常感から依存症のようにのめり込み、生活に支障が出る例もあるという。久保教授は「人生100年時代。やりすぎに注意しながら、いつまでも楽しんでほしい」と呼び掛けている。
〔写真説明〕中田亮さんのライブ配信を楽しむデイサービスの利用者と職員=4月8日、東京都葛飾区