日本とインドネシアのあいだで、海上自衛隊のあさぎり型護衛艦の移転(輸出)に向けた協議が本格化しています。ただ、なぜインドネシアは最新鋭艦ではなく35年以上前の旧式艦を求めるのでしょうか、その背景に迫ります。
日尼防衛相会談で海自のベテラン護衛艦が議題に
今年(2026年)4月の防衛装備移転三原則とその運用指針の一部改正を受けて、日本から海外への防衛装備品、特に艦艇の移転(輸出)に関する動きが活発化しています。
小泉進次郎防衛大臣は6月5日、来日中のインドネシアのシャフリィ・シャムスディン国防大臣と東京都内で会談を行いました。この会談でシャフリィ大臣から、あさぎり型護衛艦等の移転を含む防衛装備・技術協力を具体化したいとの発言があり、海上自衛隊から退役した後で同国へ移転(供与)するための議論を開始することが決まっています。また1か月前の5月に日尼防衛相会談で設置が決まったワーキンググループにおいて、艦艇の維持整備や運用などの議論を進めることとなりました。
あさぎり型は、ネームシップの「あさぎり」が今年3月に除籍したものの、練習艦に転籍した1隻(2番艦「やまぎり」)を含む合計7隻が海上自衛隊で現役です。ただ、現役最古参の「やまぎり」は40年近く前の1989年1月に就役しており、最終艦(8番艦)の「うみぎり」も一番新しいとはいっても1991年3月の就役と、その艦齢はやはり35年を超えています。
こうしたことを踏まえて、日本政府・防衛省は、2022年12月策定の防衛力整備計画において、旧式護衛艦の早期除籍などで、省人化に配慮した新たな護衛艦(FFM)を導入することを明記しています。すなわち、海上自衛隊では高性能・省力化を追求した最新鋭艦で更新することを決めているのです。
いうなれば、あさぎり型護衛艦は、かなり老朽化が進んでいるといっても過言ではありません。これを踏まえて、あえて導入しようとしているインドネシア海軍の狙いは、どこにあるのでしょうか。
中国の海洋進出に曝されるインドネシア
第二次世界大戦後、オランダから独立したインドネシアは、1955年4月にアジアとアフリカの29か国が参集したバンドン会議が開催されるなど、冷戦時代は東西両陣営に属さない、いわゆる「第三世界」と呼ばれる国々のなかでも有力国でした。
なお、国土は日本の約5倍、現在の総人口は約2億7900万人という大国です。こうした歴史と国情から、インドネシアは、国益を重視した独自性の強い、かつ能動的な外交方針を取り続けています。また、それに基づき、対外関係も非同盟・全方位というもので、アメリカとロシアだけでなく、中国、日本、インドなどとも等距離を取り続けてきました。
しかし、中国が南シナ海に自国の権益が及ぶ範囲「九段線」を一方的に設定したことで状況は一変します。この九段線を根拠に、中国は、ASEAN(東南アジア諸国連)加盟のマレーシア、ブルネイ、ベトナム、フィリピンと南沙諸島や西沙諸島の島々の領有権を争っているほか、インドネシアとの間では、九段線がインドネシア領ナトゥナ諸島の北方海域と重なっていると主張。2020年代に入り、中国漁船が中国海警の巡視船が同行するもとで、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)内に侵入して不法操業を行い、インドネシアの海上保安当局や海軍の艦艇が対抗措置を取るような事態が頻発するようになりました。
こうした中国の一方的な行動に対して、インドネシア軍は、南シナ海南部に位置するナトゥナ諸島に海上戦闘部隊司令部を移転させ、統合部隊や航空隊などを展開させるとともに、戦闘機や艦艇が即応可能な状況にしました。また並行して、海軍は装備の充実・強化を急いでいます。
では、インドネシア海軍の現状はどうなっているのでしょうか。
「即戦力」として期待されるあさぎり型
インドネシア海軍は従来、領海やEEZの警備などが主な役割だったため、小型艦艇が多いのが特徴です。水上戦闘艦に関しては駆逐艦以上の大型艦を保有しておらず、数の上での主力は26隻のコルベットです。また、コルベットより大きいフリゲートは9隻で、現在はイギリスの31型フリゲートの設計をベースにしたバラプラトラデワ級2隻を国内で建造するとともに、トルコとの間でイスタンブール級の調達交渉を進めています。
このような取り組みの中、日本から導入しようとしているあさぎり型は、基準排水量約3500t、全長が137mあり、航洋性と耐波性に優れているため、就役から30年以上経っている老艦ではあるものの、インドネシアにとっては有用です。
船体サイズを見ても、同国海軍の現有フリゲートのうちマルタディナータ級(基準排水量2365t)2隻とアフマド・ヤニ級(同2200t)5隻より大きく、かつ主要兵装として76mm速射砲、短距離地対空ミサイル装置、艦対艦ミサイル装置、アスロック装置、3連装短魚雷発射管、高性能20mm機関砲を備え、ヘリコプターの搭載・運用能力も持つことから、移転が決まれば、「即戦力」になるのは間違いないでしょう。
実は、インドネシアは「即戦力」の観点から、海上自衛隊の退役護衛艦導入に狙いを絞っていたように思われます。シャフリィ国防大臣は昨年(2025年)11月の来日時、もがみ型護衛艦とたいげい型潜水艦を海上自衛隊横須賀基地で視察し、両艦の説明を受けています。
しかし、今回の日尼防衛相会談において、最新のもがみ型ではなく、旧式のあさぎり型の導入を表明したことは、インドネシア海軍が「即戦力」としての役割をあさぎり型に求めている証左だといえるでしょう。
インドネシアへのあさぎり型護衛艦の輸出は、オーストラリアへのもがみ型護衛艦能力向上型やフィリピンへの中古護衛艦(あぶくま型)に続く成功事例となるのか、今後の行方を注視していきたいと思います。