空母の甲板と格納庫を行き来する「エレベーター」。初期の空母は甲板の中央にありましたが、現代の米大型空母ではすべて舷側に配置されています。そこには、戦闘時の“ある致命的なリスク”を避ける工夫がありました。
空母の命である「飛行甲板」を守れ! 艦載機用エレベーターの進化
空母には、飛行甲板と格納庫甲板のあいだで艦載機を行き来させるための「大型エレベーター」が必ず備えられています。しかし、その設置場所は飛行甲板の中央付近だったり側面(舷側)だったりと様々です。
たとえば、海上自衛隊のひゅうが型護衛艦と、いずも型護衛艦はともに計2基の航空機用エレベーターを備えていますが、ひゅうが型は前後とも飛行甲板の中央部分をくり抜く形で設置されているのに対し、いずも型は前側こそ飛行甲板の中央部にありますが、後部は舷側となっています。
一方で、現用のアメリカ空母は飛行甲板の中央をくり抜く形で設けられているエレベーターはなく、すべて舷側となっています。これらはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
まず、エレベーターの構造について見てみましょう。
航空機という「重くかさばる物」を載せて上下する機器なので、エレベーターの床面の真下から押し上げたり引き下ろしたりする構造であれば、比較的簡単に作ることができます。そのため、初期の空母のほとんどは、この方式を備えていました。
なお、この構造だとエレベーターを船体の内部に設置しなければならないため、必然的に飛行甲板の中央付近に配置されることになります。これが「インボード式エレベーター」です。
しかしその後、真下から押し上げるインボード式とは異なる、側面から支える片持ちの吊り上げ式エレベーターが登場します。これが「デッキサイド式エレベーター」です。
「大穴」が開く致命的リスクと舷側配置のジレンマ
次に、エレベーターの装備位置について考えてみましょう。空母にとって、飛行甲板はまさに「命」です。何らかの理由で飛行甲板が使えなくなり、艦載機の発着艦ができなくなった空母は、戦力ではなくなります。
この点、インボード式エレベーターの場合、故障や敵の攻撃を受けた際に「上った状態」で止まればよいですが、「下がった状態」で止まってしまったら、飛行甲板の真ん中に大穴が開いたのと同じことになり、艦載機の発着艦が不可能になってしまいます。
そのため、まだインボード式しかなかった頃は、もし下がったままの状態となっても、なんとか発着艦が行えるような位置を計算してエレベーターを配置していました。
一方、舷側に張り出したデッキサイド式の場合は、もし下がったままで止まったとしても飛行甲板の首尾線上(滑走部分)に穴が開くわけではないため、艦載機の運用はさほどの困難なく続けられます。
とはいえ、デッキサイド式にも弱点はあります。文字通り空母の舷側に張り出しているため、小型の空母では、荒天時や艦の傾斜によって波に叩かれやすく、それが故障や破損の原因となりかねません。
また、2層以上の格納庫を持つ空母では、エレベーターをかなり下まで降ろす必要があり、海面との距離が近くなりすぎるという懸念もありました。
いずも型護衛艦が「両方」を採用している理由
前述したように、先に登場したのはインボード式エレベーターです。その後、1930年代後期にアメリカがデッキサイド式エレベーターを実用化しました。デッキサイド式を最初に装備したのは空母「ワスプ」で、同艦に1基が設置されてインボード式と併用された後、量産型空母のエセックス級で、3基の航空機用エレベーターのうち1基がデッキサイド式とされました。
第二次世界大戦後には、片持ち式構造の強化や性能向上、さらに飛行甲板のアングルドデッキ(斜め飛行甲板)化などにより、エセックス級のいくつかの艦は改修時に3基中2基をデッキサイド式へと変更するようになっていきます。
一方、戦後に建造されたアメリカ空母は、すべてデッキサイド式エレベーターだけを備えるようになりました。
ただしアメリカ海軍も含めた世界各国の空母型の強襲揚陸艦や小型空母は、艦の規模が小さいことによる横揺れ対策としてインボード式のみとしたり、両者を併用したりするケースが見られます。また、艦尾のウェルドック(揚陸艇などの格納庫)への干渉を避けつつ横揺れの影響を減らすため、艦尾後端にデッキサイド式を設置しているケースもあります。
2026年5月現在、事実上の空母化改修が進められている、海上自衛隊のいずも型護衛艦も、前述したように前部にインボード式、後部にデッキサイド式を備える「併用型」となっています。
甲板のレイアウトひとつをとっても、空母の運用思想と技術の進化が見て取れるのです。