戦時下のウクライナへの旅は危険と隣り合わせです。ただ、空路でウクライナに入国するのは、防空システムによって撃墜されるおそれがあるため不可能。主要ルートは鉄道になります。今回、過酷な鉄道旅をレポートします。
線路を爆破! ポーランド国内でも安心できない鉄道旅
ロシアによるウクライナ侵攻が開始されて、もう4年以上が経過しました(ウクライナ人は、クリミア侵攻の2014年を戦争開始と考えているので、彼らからすれば10年以上になるのだとか)。いまや、ごくわずかな例外を除けば、空路でウクライナに入国することは不可能です。防空システムによって撃墜されるおそれがあるからです。
そのため入国の手段は陸路か海路に限られるわけですが、代表的な手段が鉄道です。筆者(飯柴智亮:元アメリカ陸軍将校)は、仕事で何十回とウクライナに入国していますが、そのほとんどは鉄道でした。そこで今回は、多くの日本人が知らないであろう、鉄道でのウクライナ入国についてリポートしてみましょう。
ウクライナの首都、キーウに向かう路線はいくつかあります。まずは出発駅を選択しましょう。ポーランドの首都ワルシャワ、ハンガリーの首都ブダペスト、そしてモルドバの首都キシナウ。距離的にはキシナウがもっとも近いですが、筆者は多くの場合、ワルシャワ発でウクライナに入国しています。
PKP(ポーランド国鉄)で、ワルシャワからルブリンを経て、国境に近いヘウムという街に移動します。ポーランド国内とはいえ、安心はできません。2025年11月には同路線がロシアの工作員によって爆破される事件がありました。運転手が気付いたおかげで大惨事には至らなかったものの、最悪、数百人規模の犠牲者が出る可能性もあった、恐ろしい事件です。
ヘウム駅でウクライナ国鉄の車両に乗り換えますが、ここでカルチャーショックを受けます。青と黄色のウクライナカラーに塗装された車両は明らかにオンボロです。旧ソ連時代から使用されていた車両なのです。
ウクライナは真夏でも30度を超えることが少ない冷涼な国ですが、夏の車中はとんでもない蒸し暑さになります。とはいえ、冷房設備がある車両は少ししかありません。特につらいのが国境での入国審査中です。審査のため2~3時間近く停車した車内に居続けなければならないからです。
「じゃあ真冬は極寒なのか?」と疑問に思った方もいるかもしれませんが、その心配は無用です。さすが北国、冬の車内は暑すぎるくらいポカポカになります。
オンボロ列車で危険と隣り合わせのウクライナ国内へ
ウクライナ国鉄の列車は、バリアフリーなんて言葉とは程遠い作りをしています。乗降口は、およそ使用者のことを考えているとは思えないほどに段差がキツく、お年寄りなどが助けを借りて乗り込む姿をよく見かけます。訴訟社会のアメリカに住んでいた身としては、考えられないような代物です。
列車はコンパートメント式の寝台列車ですが、寝台も上等とは言えません。列車同様に古いマットレスは硬く、特に二等車はひどいものです。
飲食に関しては、車内に食堂車はなく、簡単なスナックを販売している程度です。なお、これらは車掌から購入します。ただ、カードが使えないため、ウクライナ通貨「フリヴニャ」の少額紙幣か硬貨などを用意しておく必要があります。
一方で、客車には給湯器が設置されており、石炭をくべて温まったお湯はタダです。そのため、筆者はフリーズドライの食品やインスタントコーヒー、ティーパックなどを持ち込んでいます。
また、ウクライナ国鉄は全列車禁煙ではあるのですが、そこは旧ソ連。抜け穴が存在します。車両の連結部に限って喫煙が黙認されています。ただ、騒音が激しく、揺れるため危険でもあります。冬にはマイナス25度に達するため、超低温の冷蔵庫のなかにいるようなものです。喫煙をしたければ自己責任で。何かあったとしても、ウクライナ国鉄は補償などしてくれません。
とはいえ、最大の危険は、言うまでもなくロシアの攻撃です。鉄道の駅や車両に対する攻撃は、不定期・不規則に行われており、こればかりは避けようがありません。唯一の対策としては、線路の破壊に備えて後方の車両に乗るという方法がありますが、いざという時のためIFAK(個人用外傷応急処置キット)を必ず携行し、それを使いこなせるCLS(戦闘救護員)訓練を修了していることが望ましいでしょう。
ワルシャワからキーウまで、国境審査の時間(ポーランド出国とウクライナ入国で、それぞれ1時間半程度)を含めて、おおよそ12時間で到着します。新幹線をはじめとする、日本の優れた鉄道インフラのありがたみを痛感するキツい旅になることは間違いないでしょう。
もし興味があるのであれば止めはしませんが、ぜひ自己責任で。なお、日本の外務省はウクライナについて「退避勧告」を発しています。企業・団体の業務としてやむを得ない事情で渡航する場合は、「必要かつ十分な安全対策を準備」したうえで、外務省窓口に問い合わせるよう求めています。