自分でできるクルマの整備のなかでも身近なタイヤ交換。ホイールナットを締めるトルクレンチで、一度「カチッ」と鳴った後にもう一度締める「2度打ち」はOKなのでしょうか。実は“締めすぎ”よりも怖いことがあります。
トルクレンチ、もう一回「カチッ」はOK?
クルマの整備作業のなかで、一般ドライバーでも自ら行うことが多い作業のひとつがタイヤ交換です。手順と注意点さえしっかり守れば誰でもできる整備なので、5月の連休中に「夏タイヤへ履き替えよう」と考えている人も多いのではないでしょうか。
一方、タイヤ・ホイール合計での1本あたりの重量は、現代のクルマで20kgを優に超えます。それだけの重量物が4本、高速で回転しているわけですから、タイヤ・ホイールと車体の締結が不適切な状態だと、運転者はおろか、周囲にいるクルマやバイク、歩行者にまで重大な危険を及ぼすのです。
そこで最も重要になるのが、ホイールナット(輸入車や一部国産車はボルト)を締め付ける力、すなわちトルクの管理です。トルク管理を行うためには「トルクレンチ」という工具が必須となります。
トルクレンチはナットやボルトを、設定したトルクに達するまで締め付けるための工具です。締め付けトルクが設定値に達したときは、「カチッ」という音とともに過剰なトルクが逃がされ、締め付け作業が完了します。
トルクレンチを使用するのは、基本的に作業の最終段階。タイヤを交換後、ホイールナットを工具でしっかり締めたら、油圧ジャッキを降ろし、タイヤを地面に軽く接地させて荷重を与えます。その後「カチッ」という音が鳴るまで、トルクレンチで再度ホイールナット(またはボルト)を締めつけるわけです。
ところでこの作業工程には、自らクルマを整備する人々の間で「やってもOKか、NGか」がしばしば議論になる行為があります。それが、トルクレンチから一度「カチッ」と音が鳴った後、さらにもう一度音が出るまで締める、通称「2度打ち」です。
「すでに音が鳴っているのに、ナットをさらに締め付けるのは『オーバートルク』、つまり締め過ぎである」というのがNG派の主な主張ですが、果たして「2度打ち」は、本当に絶対やってはいけない行為なのでしょうか。
工具メーカー公式は「NG」 しかし…
トルクレンチを「2度打ち」してはいけないのか、やってもいいのか。元整備士である筆者(坂上猛禽:ライター)としての見解は、「OK」となります。
しかし、前述のようにオーバートルクになるような気がするうえに、トルクレンチを製造している工具メーカーでは、2度打ちをNGとする指示がされています。なぜOKなのでしょうか。
実は自動車メーカーが発行している取扱説明書を見ると、締め付けトルクは「98Nm(±2Nm)」「88~108Nm」といったように、基準値に幅を持たせた記載になっています。
またオーバートルクのリスクですが、設定トルクさえ変えていなければ、仮にトルクレンチを2回鳴らしたとしても、その際に加わるトルクはごくわずか。過大と言えるほどのオーバートルクにないと言えます。
つまりホイールの締め付けトルクは「規定トルクの範囲内の値で締まっていれば、ピッタリでなくてもOK。その範囲内ならば多少の増し締めは問題ない」という認識で大丈夫でしょう。
実際に、あるメーカー直営ディーラーに併設されている整備工場では、整備作業者がホイールをトルクレンチで締めた後、ちゃんと規定値内で締まっているか、別の作業者が再度トルクレンチを当ててダブルチェックしています。
これも「2度打ち」になりますが、少なくとも筆者は、これが原因でナットやボルトが壊れるといった事態は一切見たことがありません。また超高速走行や長時間の耐久走行など、一般の車両よりはるかに高負荷な状態でクルマを走らせているモータースポーツの現場でも、走行前にトルクレンチを「2度打ち」するチームは多く見られます。
逆に、2度打ちによるオーバートルクばかりを気にした結果、ナットやボルトの締め付けトルクが規定値を下回った、「アンダートルク」状態のままで走る方がよほど危険です。タイヤ交換をする際は適切な管理と校正がなされたトルクレンチを必ず用意し、適切な使用方法で作業を行いましょう。