なぜ車を「どれも同じ顔」にしたがる? 「見分けがつかない」「個性がない」それでもメーカーが選ぶ“諸刃の剣”の顔戦略

AI需要 電子部品の需給ひっ迫へ

最近のトヨタ車にみられる「ハンマーヘッド」など、メーカー内でデザインを統一する「ファミリーフェイス」が目立ちます。モデルごとの違いが分かりにくくなるのになぜ採用されるのでしょうか。

ブランドを押し出す「全部同じ顔」戦略

 街中を走る新しいクルマを見て、「どれも同じような顔じゃないか」と感じたことはないでしょうか。よく見ればメーカーやブランドは判別できるものの、近年はブランド内で顔つきの統一が進み、一目では個々のモデルまで見分けづらくなりました。

 こうしたブランド内でのデザイン手法は、「ファミリーフェイス」と呼ばれるものです。例えば、最近のトヨタでは「ハンマーヘッド」と呼ばれるファミリーフェイスが採用されており、「プリウス」「アクア」「クラウン」「RAV4」「bZ4X」などは、どれも同じようなデザインの顔になっています。

 また国内メーカーでは、マツダやスバルがほぼすべてのモデルにブランド固有のファミリーフェイスを採用しています。このほか海外では、「キドニーグリル」と呼ばれるグリル部のデザインを伝統的に使っているドイツのBMWが有名でしょう。

 しかしユーザーからすれば、ファミリーフェイスを採用するメーカーが増えたことで、モデルごとの違いが分かりにくくなりました。また、モデルごとの個性を求めるクルマ好きには不評な手法でもあります。それでも、自動車メーカー各社がわざわざファミリーフェイスを採用するのはなぜなのでしょうか。

 最大のメリットは、ブランドの知名度アップにつながることです。たとえば同じメーカーのクルマが3車種あったとして、モデルごとに顔つきが異なっていると、何というブランドのクルマかが見た人に伝わりません。ところが3車種とも同じ顔であれば、モデル名はわからずとも、どのブランドのクルマかは一目瞭然というわけです。

「全部同じ顔」モデルで“地獄”を乗り越えたマツダ

 ファミリーデザインの採用により、近年最も成長を遂げた国内メーカーはマツダでしょう。マツダは2010(平成22)年、「魂動デザイン」という新世代のファミリーフェイスの採用を始めました。

 当時のマツダは、円高やリーマンショックなどの影響で経営が悪化しており、会社自体の先行きも不安視されていました。当時のマツダ経営陣は「マツダの世界シェアは2%しかないからこそ、ブランドが重要」と主張。打開策のひとつとして、新しいファミリーフェイスである魂動デザインの採用を進め、イメージの一新を図りつつ、世界的には低かったマツダブランドの知名度を高めることに成功しました。

 また、魂動デザインの全車展開には独自の個性を前面に押し出す狙いもありました。消費者へブランドの魅力をストレートに伝えるには、ファミリーフェイスは適した手法です。マツダは不特定多数のユーザーではなく、進んで自社のクルマを選ぶコアなファンを増やそうとしたのです。

 マツダは日系メーカーのなかでも、特にブランド力の弱さに振り回された会社です。昭和期には販売力の弱さから、全国のディーラーで大幅な値引きが横行。それが「マツダ車=安物」というイメージを一層強め、他社での乗り換えの際には下取り価格も低く査定されていました。

 そのためマツダ車のユーザーは、下取りが安いから値引きの大きいマツダの新車しか買えない、あるいは最も高い下取り額を提示する、マツダ販社しか選べなくなる状況にしばしば陥り、世間ではこの悪循環を「マツダ地獄」と呼ぶ人もいたほどです。

 こうした状況を打開するため、マツダは昭和末期から平成初期にかけて販売、ブランドを5つに増やす「5チャンネル体制」に挑戦。しかし、いきなり誕生した新ブランドはユーザーに浸透せず、バブル崩壊もあって大失敗。経営危機に陥ったマツダは、1990年代後半に米国のフォード傘下に入りました。こうした過去があるからこそ、マツダは今もブランド力の向上に心血を注いでいるのでしょう。

「全部同じ顔」は諸刃の剣でもある!?

 そもそも、トヨタ以外でファミリーフェイスを採用しているマツダやスバル、BMWは、どこも販売台数のわりに知名度の高いブランドと言えます。トヨタがファミリーフェイスを採用するのも、トヨタ・ブランドの力をいっそう強めるためだと推測できます。

 ただしファミリーフェイスには、前述した「モデルごとの個性が打ち出しにくい」ということ以外に大きなデメリットがあります。

 それはブランドのイメージが悪くなると、全モデルの売れ行きが悪化するということです。ブランドイメージをひとつの方向に固定するだけに、ひとつのネガティブな要因が、悪い方にもメーカーに大きな影響を与えるのです。

 また個性的なファミリーフェイスは、それを好まない層も確実に生み出します。このためファミリーフェイスを広く展開しても、メーカーの成長は一定レベルで止まってしまうことがほとんどです。比較的小さなシェアしかなく、中堅規模より上を目指すメーカーにとって定石である反面、諸刃の剣でもあるのです。

 近年ハンマーヘッドの採用が目立つトヨタでも、ラインナップ全体を見れば採用モデルは限定的にとどまっています。一方、マツダやスバルがファミリーフェイスを卒業するのは、世界販売でトップ10の上位を狙えるほど成長できた時でしょう。

 ただし、これらの個性派メーカーが世界トップレベルの販売規模になるには、どこかで“尖った個性を捨てること”が必要になるはずです。そうした段階に入らない限り、マツダもスバルもBMWも当分ファミリーフェイスを継続すると予想できます。