核拡散防止条約(NPT)は、米ロ英仏中の核保有5カ国に核軍縮への「誠実な交渉」を義務付ける。しかし、国際情勢が不安定化する中、各国はむしろ逆行する動きを加速させており、核軍縮体制は強い逆風にさらされている。
◇対抗措置
米国と並ぶ核大国のロシア。2022年のNPT再検討会議を紛糾させた同国によるウクライナ侵攻は今も続く。背景にある北大西洋条約機構(NATO)との対立が深まるにつれ、核兵器を巡る諸条約はロシアにとって「政治の道具」と化した。
ロシアは23年、北欧諸国のNATO加盟の動きを受け、同盟国ベラルーシに戦術核兵器を移転。米国が核兵器を同盟国と共同運用する「核共有」と同じだと主張した。
プーチン大統領は同年、米ロ間で唯一残っていた核軍備管理枠組み「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表、米国に揺さぶりをかけた。新STARTはそのまま今年2月に失効。後継条約が結ばれる見通しは立っていない。
トランプ米大統領が25年に「核実験の再開」に言及すると、プーチン氏は「ロシアも対抗措置を講じなければならない」と発言。北極海のノバヤゼムリャ島での「本格的な核実験」を念頭に威圧を強めた。近年は原子力推進式巡航ミサイル「ブレベスニク」や無人原子力潜水艇「ポセイドン」など、核運搬手段の開発も強化している。
◇日本批判も
中国は25年時点で核弾頭を推計600発保有する。5000発を超える米ロとはいまだ開きがあるが、増加ペースは速い。米国防総省は、中国が30年までに1000発超を保有するとみている。
「核の先制不使用」をうたう半面、核軍縮に関しては、規模で勝る米ロがまず大幅に削減すべきだとの立場だ。トランプ氏が提唱する米ロに中国を加えた核管理の枠組み構築については、戦力差がある現状では「不公平」だとして取り合っていない。
一方、日本の高市早苗政権の非核三原則を巡る議論に神経をとがらせ、「核保有の野心」を抱いていると一方的に主張する。「日本は短期間に大量の核弾頭をつくれるプルトニウムを持っている」(解放軍報)といった主張を展開しており、今後日本批判を強める可能性もある。
◇「脱米国」
ロシアの脅威に直面する欧州ではトランプ氏の再登板後、米国の「核の傘」への信頼が揺らぐ。代わりに核保有国のフランス、英国が果たす役割への期待が高まっている。
米国は、NATOに加盟する非保有国のドイツやイタリアなどに核爆弾を配備して「安心」を供与してきた。だが、トランプ氏はNATO批判を繰り返し、脱退すら示唆。欧州内で「あてにならない」との懸念が一気に広がった。
これを好機と捉えたのが、欧州の対米自立を持論とするマクロン仏大統領。昨年7月、スターマー英首相と核協力の推進で合意し、共同声明で「両国は欧州への極度の脅威に対抗する」と強調した。今年3月には英、ドイツ、ポーランド、スウェーデンなど計8カ国と、抑止力を高める「前方抑止」の実現に向け協議していくと表明。核弾頭数(推計290発)を増やす考えも示した。
〔写真説明〕ロシアのプーチン大統領=23日、モスクワ(EPA時事)