東京・池袋で母子2人が死亡した高齢ドライバーによる暴走事故で、警視庁交通捜査課の高橋哲課長(58)が取材に応じた。19日で発生から7年。当時、同課管理官で捜査責任者だった高橋さんは、遺族の無念の思いを胸に捜査に臨んだことを振り返りつつ、「この事故を風化させてはならない」と訴えた。
「乗用車が多数の人をはねている」。2019年4月19日昼すぎ、通報を受けて同庁本部から急行した。横倒しになったごみ収集車や、真っ二つに切断された自転車。「過去に経験したことがない」ほどの凄惨(せいさん)な現場が目に飛び込んできた。
すぐに交通規制とともに、周辺の防犯カメラ映像の回収を指示。事故を起こした車のドライブレコーダーを確認すると、自転車に乗る母子がはね飛ばされる様子が映っていた。
高橋さんは母子の遺族、松永拓也さん(39)らへの捜査状況の説明も担当。松永さんが白い紙を丸めながら「今の私の心境はこれと同じで、広げても、しわが残って、元の状態には戻りません」と言ったことが今でも忘れられない。
運転していたのは当時87歳だった飯塚幸三元受刑者=死去=で、事故後、車の故障を主張した。高橋さんは「遺族の期待を裏切ってはならない」と、捜査員を奮い立たせた。事故車両を徹底的に調べ、不具合がなかったことを確認。元受刑者の健康状態も調査し、持病などが事故原因に影響せず、本人の踏み間違いという過失を立証した。高橋さんは「やりきったと思う」と振り返った。
元受刑者は裁判で無罪を主張したが、禁錮5年の実刑判決が確定した。
事故は大きな社会的関心を集め、高齢運転者の免許返納が進んだ。ただ高齢者の踏み間違い事故は今も減っておらず、時間の経過とともに風化の懸念も高まっている。高橋さんは同じ悲劇が繰り返されないよう、「いま一度この事故を思い出してほしい」と訴えている。
〔写真説明〕池袋暴走事故を振り返る警視庁の高橋哲交通捜査課長=15日、東京都千代田区
〔写真説明〕事故現場で行われた実況見分の際の高橋哲さん(左)と飯塚幸三元受刑者(中央)=2019年6月、東京都豊島区