戦場の全てが“モニターで丸見え!?” 陸自の無人機防衛構想にピッタリな米大手企業の新システム「メッシュランナー」とは

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防衛省が計画する沿岸防衛構想「SHIELD」。この構想の鍵を握るかもしれない、アメリカの先端技術企業が開発した新システム「メッシュランナー」について、同社幹部に直接話を聞きました。

陸海空から兵士まで「あらゆるものを繋ぐ」システム

 防衛省は現在、日本に接近する敵の艦艇や無人機を、沿岸部で無人装備によって迎撃する防衛構想である「多層的沿岸防衛体制(SHIELD)」を計画しています。2026年度の防衛予算では、関連経費として約1200億円が盛り込まれました。この構想では、個々の無人装備の性能もさることながら、それらを束ねる指揮統制システムが極めて重要になります。

 そうしたなか、アメリカを拠点に重要任務向けプログラムの管理および技術サービスを提供するアメンタム社が、まさにその役割にうってつけのシステム「メッシュランナー」を開発したといいます。今回、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)はメッシュランナーの開発チームを率いる同社幹部であり技術開発担当グループディレクターのダンカン・スティール氏にインタビューする機会を得ました。

 スティール氏によると、メッシュランナーは単にUGV(無人地上車両)やUAV(無人航空機)、さらにはUUV(無人潜水機)やUSV(無人水上艇)といった各種無人機を、単一のシステム上で接続するだけの存在ではないといいます。

「メッシュランナーは、多種多様なシステムを統合するための仕組みです。空中、地上、水上で運用される無人システムだけでなく、有人システム、車両から下車した兵士、戦場に設置される各種センサー、さらに前方展開司令部や後方司令部までを含めて、まさに網目(メッシュ)状に結び付けて一つのシステム内に統合するのです。

 その目的は、センサーなどが提供する現代の戦場で必要となる膨大なデータを全て、単一の指揮統制(C2)画面に共通状況図(COP)として表示することにあります。言い換えれば、『一つの画面に必要な情報を全て統合して表示すること』です。そして、この表示される画面は、後方司令部から前線部隊の指揮所に至るまで、すべて共通のものです」

 また、このシステムは特定のハードウェアに依存しない「プラットフォーム非依存」である点も大きな特徴だと、スティール氏は説明します。

「このメッシュランナーの目的は、ある空間においてあらゆる装備の複雑なフリート(群)を管理できる、安全なネットワークを提供することです。当社はハードウェアメーカーではありません。仮に、現在運用されているAという装備が2年後に陳腐化して使えなくなっても、BやCといった別の装備を容易に統合できます。

 これは、第三者ベンダーの装備とも相互運用でき、能力向上も容易だということです。これまでの実証試験では、異なるプラットフォームや異なるペイロードを持つさまざまな企業と連携してきました。こうした実績に基づくこの仕組みにより、運用上の柔軟性を確保できるわけです」

AIが「戦場の霧」を晴らす

 この通り、メッシュランナーは各種装備やセンサーを結び付け、今戦場で何が起きているのかを単一の画面の中で表示してくれるシステムです。そうなると、いわゆる「戦場の霧」を晴らし、戦いの中における不確実性を減らす存在として、メッシュランナーは重要になっていきそうです。

 そこで重要になってくるのが、いかに安定した通信を実現するのかという点。通信が途切れ途切れになってしまえば、戦場の可視化は実現できません。スティール氏によると、メッシュランナーはその点についても万全の態勢を整えているといいます。

「メッシュランナーではAIやインテリジェンス機能を活用して、状況に応じたネットワークの最適化を可能にしています。たとえば、車両を制御している最中に、地形などの影響で見通し線内での通信が途切れたとしても、別のノードが通信を確保していれば自動で通信経路や構成を切り替えることができます。同様に、使用可能な通信帯域が低下して必要なデータが得られなくなった場合でも、任務に必要なデータに自動で優先順位を付けて送受信することが可能です」

 このように、仮に一部の装備やセンサーが機能しなくなったとしても、メッシュランナーによって結ばれている別の装備などによって通信をリレーしたり機能を代替したりすることができるほか、通信内容をコントロールすることで通信帯域が限定される環境下でも問題なく作戦を実行することができるわけです。

 ちなみに、メッシュランナーによって結ばれている装備やセンサー、操作パネルを持つ個々の兵士は「ノード」と呼ばれており、そうした個々のノードが連なってネットワークが構成されています。メッシュランナーでは非常に多くのノードを管理することができるとスティール氏は説明します。

「当社の見立てでは、単一のメッシュで約100ノード程度を管理できると考えています。つまり、複数の兵士、複数の小型ドローン、さらには衛星通信へのリンクまで単一のシステム内で管理できるというわけです。とくに、海上防衛の分野では防衛が必要になるエリアが数百海里にまで及ぶ以上、衛星通信がこれに含まれているのは非常に重要です。更に複雑なオペレーションで1000ノード必要な場合は、10メッシュの同時運用によって対応が可能です。

 また、メッシュランナーは構成全体として通信がセキュア(安全)であることを重視しています。当社のサイバー/インテリジェンス部門と私のチームは非常に緊密に連携しており、安全な通信は彼らの専門領域です」

日本の防衛構想「SHIELD」の“背骨”になれるか

 このように、有人・無人を問わず多様な装備品やセンサーを結び付けることができるこのメッシュランナーですが、冒頭で触れた防衛省・自衛隊のSHIELD構想との親和性は高いように筆者は感じます。この点について、スティール氏も次のように述べています。

「私が理解しているSHIELD構想の範囲では、当社のメッシュランナーはその要望に合致する存在であり、日本がSHIELDで求める能力の多くを提供できると考えています。

 したがって、防衛省との対話はぜひ行っていきたいと思っています。これまで当社で得実施してきた実証試験や開発経験を共有し、この分野で『何が重要になってきたか』を一緒に整理していければと思います」

 ここでスティール氏が触れた「実証試験」に関して、じつはアメンタム社はすでにイギリス陸軍と共に実践的な試験を実施しているのです。スティール氏は、その試験の内容を次のように説明します。

「2024年、私たちは『プロジェクト・アケロン(Project Acheron)』に参加しました。これはイギリス陸軍が実施したヒューマン・マシン・チーミング演習の一部で、同年7月から8月にかけて、イギリス南西部のデヴォン州で3週間にわたり実施されました。

 試験は、イギリス陸軍およびイギリス海兵隊コマンド部隊とともに、UGVおよび小型無人機を用いて行われました。その内容は、火砲による砲撃および小火器射撃の検知です。そのために音響アレイと無人システムを統合し、大型UGV 1両を中核として、小型UGV 2両と小型無人機が特定エリアを移動し、砲撃および小火器射撃の位置を特定できるようにしました。そして、このときの経験を活かして生み出されたのが現在のメッシュランナーなのです。

 現在はイギリス陸軍およびイギリス空軍と、次の段階の実証に向けた協議を進めています。さらに、他国軍からの関心もあり、2026年にはより多くの実証を行えることを期待しています」

 このように、メッシュランナーはすでに無人装備との協働に関する実証試験の経験を取り込んで開発されているわけです。

日本製システムとの統合はどうなる?

 一方で、自衛隊はすでに富士通や三菱電機、NECなどが開発に関与した国産の指揮統制システムを運用しています。仮にメッシュランナーを自衛隊に提案していくためには、こうした既存の国産システムとの接続が可能かどうかというのは気になるところです。この点について、スティール氏は次のように説明します。

「とても良い質問です。メッシュランナーは、プラットフォームとペイロードの間に入るミドルウェア層として統合できるよう意図されています。そのため、既存システム側のAPIがどうなっているかを確認し、その上で統合の形を設計することになります。場合によっては、既に使われている指揮統制システムがそのまま残り、通信の部分に当社のミドルウェアを使う、という形もあり得ます。

 一方で、当社としてはメッシュランナーを指揮統制システムとして導入していただくご提案も可能です。ただし、それは前方司令部や後方司令部で使うGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を、既存のシステムや運用方法に合わせて構築できないということではありません。これまでと同様に運用上の一貫性を保てるよう、お望みのGUIに合わせて設定できます。

 最も重要なのは、ばらばらのデータを、迅速な意思決定に使えるインテリジェンスへと変換することです。通信や無線が乱立し、複数画面を見比べるのではなく、単一の運用視点に集約して、適切な時間軸で重要な判断を下せるようにすることが肝要です」

 技術の変化が速い現代において、特定の装備に依存するシステムはすぐに陳腐化してしまいます。メッシュランナーが目指すのは、次世代や別メーカーの装備も柔軟に取り込み、軍が即応性や可用性、作戦性能を維持できるようにする「背骨」のような存在になることというわけです。