米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦で、欧州主要国がトランプ米政権批判を控える中、米軍基地の使用を拒否し、「一方的な国際法違反」と非難するスペインのサンチェス首相の姿勢は際立っている。大国の意向をはねのける背景には、多国間外交による「対米依存の縮小」(専門家)や、「イラク戦争加担へのトラウマ」(同)があるとみられる。
2025年に約9700万人の外国人観光客を記録した観光大国スペイン。実質GDP(国内総生産)の成長率(24年)は3%を上回る。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、オリーブオイルの主要な輸出先は米国だが、輸出総額に占める米国の割合(同年)は、4.7%にとどまる。基地使用拒否に反発したトランプ米大統領の禁輸措置の警告に、堅調な経済成長からサンチェス氏は「報復を恐れない」と屈しない。
国際関係史に詳しい日本大学の細田晴子教授によると、フランコ独裁政権時代(1939~75年)、欧州の「周縁国」として孤立した経験から、民主化後は地中海周辺や中東の国々との関係を重視し、過度な対米依存を回避してきた歴史がある。
スペインでは「米国の武力侵攻の加勢には根強い反発がある」(細田氏)。アスナール政権(当時)は03年のイラク戦争を支持して派兵したが、翌04年に首都マドリードで報復と見られるイスラム過激派による列車爆破テロが発生。国民の間で今もトラウマとなっている。
またサンチェス氏は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の防衛費のGDP比5%への引き上げにも難色を示し、トランプ政権と緊張関係にあった。スペインは欧州の西南部に位置し、ウクライナを侵攻したロシアから遠い。ポーランドなど東欧諸国に比べ防衛力強化の切迫感が比較的低いためだ。
一方、スペイン現代史に詳しい慶応義塾大学の加藤伸吾准教授は、中道左派政党を率いるサンチェス氏には「欧州が右傾化する中、左派を取り込む思惑がある」と指摘する。少数与党政権は夫人や側近らの汚職疑惑もあり、支持率が低下。不安定な政治のかじ取りを強いられている。強硬姿勢の裏には、トランプ批判を原動力に劣勢から盛り返そうとする内政事情もありそうだ。
〔写真説明〕スペインのサンチェス首相=マドリード(首相府が4日公表)(AFP時事)