全長300mを超える巨大なタンカー。実は操縦席が一番後ろにあるのには、巨大船ならではの“安全”と“効率”を突き詰めた合理的な理由がありました。知れば納得の設計思想に迫ります。
“船の頭脳”が後ろにそびえ立つ理由 エンジンの位置と衝突への備え
巨大なタンカーを見ると、その操縦室(ブリッジ)が船体の一番後ろにあることに気づきます。
クルマや電車、飛行機などは前方が見やすいよう、運転席が一番前や前寄りにあるのが一般的です。その傾向はカーフェリーや客船、自動車運搬船、果ては軍艦も同様です。なのに、なぜタンカーのブリッジはあえて後ろに設けられているのでしょうか。
大きな理由のひとつは、船を動かすエンジンの位置にあります。
巨大なプロペラを回すエンジンや推進装置は船尾側に置かれることが多いですが、これはプロペラとエンジンをつなぐ重い軸(プロペラシャフト)を短くするためです。
操縦設備や居住区を船尾側にまとめれば、推進装置まわりの配管や配線、連絡動線を集約しやすく、保守の面でも合理的だとされています。
加えて、衝突時の安全を守るための“知恵”も挙げられます。
船首側での衝突などを想定し、重要な操縦設備や乗組員が過ごす場所を船尾側にまとめ、物理的な距離を確保するという考え方があります。
これは万が一の衝突時にも、“船の頭脳”と人を守るための配置だといえるでしょう。
荷物を最大限に運ぶための知恵 前方の死角をカバーする“高さ”のヒミツ
もうひとつの大きな理由は、タンカーの使命である大量の荷物を運ぶことにあります。
ブリッジや居住区を後ろにギュッとまとめることで、船体の真ん中部分を区切ることなく、巨大な貨物タンクを配置することが可能になります。もし中央付近に大きな上部構造物があると、タンク配置の自由度が下がり、積載効率が不利になりかねません。
さらに、一番後ろの高い場所から長い船体を見渡すことで、巨大な船全体がどのように動いているか(挙動)を視界に入れながら把握しやすいというメリットもあります。
一方で、後ろにいるとすぐ前が見えにくくて危なくないのか、と感じる人もいることでしょう。
実は巨大な船には国際条約SOLAS(海上人命安全条約)に基づく視界要件があり、操船位置から見た前方の海面が、「船首から船の長さの2倍」または「500m」の短い方より先まで見えることなどが求められています。
こうした要件を満たすために、タンカーのブリッジはまるで塔のように高く作られ、前方の死角をできるだけ小さくしているのです。
タンカーの独特なシルエットは、限られた空間で効率と安全を最大限に引き出そうとした造船技術の結晶といえるでしょう。