中東情勢の緊迫化で、世界の石油・天然ガスの大動脈であるホルムズ海峡が事実上封鎖されました。もしアメリカなどから民間船の護衛を依頼された場合、海上自衛隊は現行法で対応できるのでしょうか。
海上警備行動では対処できない?
2026年2月28日に発生した、イランに対するアメリカとイスラエルによる攻撃を契機として、中東情勢はその緊迫度を大きく増しています。なかでも、イランの軍事組織であるイスラム革命防衛隊は、ホルムズ海峡を通航しようとする特定船籍の外国船舶を攻撃すると宣言し、同海峡を事実上閉鎖しました。すでに、タンカーなど民間船舶に攻撃が加えられたとの情報も数多く報じられています。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間に位置し、最も狭いところでは幅が約33kmという海峡です。ここを、全世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給量の約2割がタンカーによって通過するという、まさに世界規模での海上交通の要衝と言えます。そのホルムズ海峡が閉鎖されたとなれば、世界経済に与える影響は計り知れません。もちろん、石油や天然ガスを船舶による海上輸送に頼る日本も、例外ではありません。
そこで、もし日本政府に対して、アメリカなどからホルムズ海峡における民間船舶の護衛を依頼された場合、果たして現行法での対処は可能なのでしょうか。ここでは、あくまでも頭の体操として、いくつかのケースを考えてみたいと思います。
【ケース1 海上警備行動】
まず考えられるのは、「海上警備行動」による対処です。海上警備行動とは、「海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合」(自衛隊法第82条)に、自衛隊の部隊によって行われるものです。
基本的に、海上の治安維持は海上保安庁の仕事ですが、現場海域が遠く離れているとか、または相手が重武装であるとかで、同庁による対応が困難な場合もあり得ます。そうした際に、自衛隊が海上保安庁の仕事を肩代わりするのが、海上警備行動です。
海上警備行動が発令された際の権限について定める自衛隊法第93条1項では、武器使用に関する規定として警察官職務執行法第7条を準用すると定めており、「自己若しくは他人に対する防護…のため必要であると認める相当な理由のある場合」には、その事態に応じて必要とされる限度で武器を使用することが許されています。従って、海上自衛隊の護衛艦が、護衛対象となる民間船舶を、武器を使って防護することは理論的には可能です。
ただし、海上警備行動では防護できる船舶に限定が付されています。というのも、先述した自衛隊法第82条にある「海上における人命もしくは財産」とは、基本的に日本人や日本に関連するものを指しているためです。
そのため、海上警備行動において保護されるのは、「1.日本籍船」「2.日本人が乗船する外国籍船」「3.日本の船舶運航事業者が運航する外国籍船または日本の積荷を輸送している外国籍船であって、日本国民の安定的な経済活動にとって重要な船舶」という3種類の船舶に限定されており、これらは「日本関係船舶」と呼ばれます。
さらに、武器を使用して防護を実施できるのは、日本関係船舶のうち「1.日本籍船」のみで、その他の船舶に対する侵害に対しては、たとえば近接や呼びかけなど、実力の行使を伴わない限定的な措置が許されるのみです。これは、公海上で船舶に排他的な管轄権を有しているのはその船が掲げている旗の国(旗国)であるという、国際法上の旗国主義の原則に基づき、外国籍船の防護はその旗国が責任をもって行うべきと日本政府は整理しているためです。
「海賊対処」も使えない? 相手が“国”だとアウト
【ケース2 海賊対処行動】
それでは、日本関係船舶、もっといえば日本籍船以外を、武器を使用して防護するにはどうすれば良いのでしょうか。これに対応するのが「海賊対処行動」です。海賊対処行動とは、船舶に乗り込んだ者が海上(他国の領海は除く)を航行中の他の船舶を襲撃して、運航を支配したり、財物などを奪ったりする「海賊行為」(海賊対処法第2条)に対処するというものです。
海賊対処行動の場合、海賊行為の被害を受けている船舶であれば、日本船籍に限らず、どの国の船舶であっても助けることができます。また、海上警備行動と同じく、海賊対処行動においても警察官職務執行法第7条の規定を準用している(海賊対処法第8条2項)ため、襲撃を受けている船舶を助けるために、護衛艦およびその乗員は武器を使用することができます。
ただし、海賊対処行動に関してもいくつか課題があります。まず、国際法上、他国の領海内で起きた事案は海賊行為とは位置づけられず、「武装強盗」と呼ばれます。これは、海賊対処法においても同様です。ホルムズ海峡はオマーンもしくはイランの領海で構成されていますから、そもそも海賊対処行動での対応は、ホルムズ海峡周辺の公海もしくは排他的経済水域に限定されてしまうのです。
また、対象となる行為が「私的目的」によるものに限定されているという点も問題となります。そもそも、海賊行為については国際法、具体的には国連海洋法条約第101条において「私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為」と定義されています。つまり、「私人」が「私的目的」のために行うもので、これは海賊対処法で規定されている海賊行為についても同様です。
つまり、今回のようにイランの公的な軍事組織である革命防衛隊が関与するような事案の場合、この「私的目的」という部分が問題となり、これを海賊行為と位置付けることはできないわけです。
加えて、これは海上警備行動と海賊対処行動双方に共通する問題ですが、そもそもこれらの行動の下で行われる武器の使用は警察活動として行われるものであり、他国軍との交戦を行う権限を与えているものではありません。場合によっては、憲法が禁じる武力の行使に該当する可能性もあり、その場合には別途防衛出動という別形態での対応が求められることになりますが、その下令のための要件は非常に厳しく、対応は困難です。
したがって、これらの行動によって、革命防衛隊による攻撃に対処することはできないわけです。
唯一残された道? 自衛隊による「武器等防護」とは
とすると、自衛隊による対応は事実上不可能ということになるのでしょうか。じつは、防衛出動による対応を除き、一つだけ武器を使用した対応が可能になる方法があります。それが「武器等防護のための武器の使用」です。
【ケース3 武器等防護のための武器の使用】
武器等防護のための武器の使用は、自衛隊法第95条に規定されています。これは、おもに平時に、自衛隊が装備する「武器等(武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備または液体燃料)」が奪われたり破壊されたりすることを防ぐために、その武器等を守る役割を与えられた自衛官が、武器を使用してこれを防護する、という規定です。その目的は、自衛隊が装備する武器等が奪われたり破壊されたりして、自衛隊の能力が低下し、ひいては日本の防衛力そのものが低下するのを防ぐことにあります。
この規定による武器使用は、「(1)武器を使用できるのは、職務上武器等の警護に当たる自衛官に限られていること」、「(2)武器等を退避させてもなおこれを防護することができないなど、他に手段のないやむを得ない場合でなければ武器を使用できないこと」、「(3)武器の使用は、警察比例の原則に基づき、事態に応じて合意的に必要と判断される限度に限られていること」、「(4)防護対象の武器等が破壊された場合や、相手方が襲撃を中止し、または逃走した場合には、武器の使用ができなくなること」、「(5)正当防衛または緊急避難の要件を満たす場合でなければ人に危害を与えてはならないこと」という、非常に厳しい要件が設けられています。
しかし、その厳しい要件のおかげで、この規定に基づいて仮に他国の軍隊に対して武器を使用したとしても、憲法が禁じる武力の行使には当たらないというのが日本政府の見解なのです。
「このような武器の使用(筆者注:武器等防護のための武器の使用)は、自衛隊の武器等という我が国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊、奪取しようとする行為からこれらを防護するための極めて受動的かつ限定的な必要最小限の行為 であり、それが我が国領域外で行われたとしても、憲法第9条第1項で禁止された『武力の行使』には当たらない」(自衛隊法第95条に規定する武器の使用について (平成11年4月23日 衆議院・日米防衛協力のための指針に関する特別委員会 理事会提出資料))
「自分の艦を守る」が結果的に民間船を守ることに でも本当は…
しかし、いくら武力の行使には当たらないとしても、この規定で防護できるのは、防護対象に指定された自衛隊の装備、この場合には海上自衛隊の護衛艦のみということになり、一見すると民間船舶の防護にはつながらないようにも思えます。ところが、過去の国会答弁を見てみると、あながちそうとも言い切れないのです。
たとえば、1999(平成11)年に、当時の野呂田防衛庁長官が「紛争避難民を乗せた他国の民間船舶が海上自衛隊の護衛艦の前で攻撃を受けた際、これに対処することはできないのか?」と問われた際、このように答弁しています。
「一般論として申し上げますと、自衛隊法の95条においては自衛隊の武器等という、我が国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊、奪取しようとする行為から、これを防護するため極めて受動的かつ限定的で必要最小限度の武器使用について規定をしております。
御指摘のような状況においては、他国船舶に関する不測の事態が同時に自衛隊船舶を破壊、奪取しようとする行為であるような場合には、これが同条の要件を満たす限りにおいて同条の規定に基づく武器の使用は可能であると考えております」(第145回国会 参議院 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会 第3号 平成11年5月10日 野呂田芳成 防衛庁長官答弁)
つまり、他国の民間船舶に対する攻撃が、同時に護衛艦に対する攻撃にも該当し得るような場合には、武器等防護のための武器使用で対応することができるわけです。では、どういった場合がそのようなケースに該当するのでしょうか。参考になるのは次の国会答弁です。
「仮に自衛隊とほかの船との、船舶が極めて近接しているような場合、これは結果的に、確かに自衛隊の武器等の防護のために武器を使用することが当該ほかの船舶に対する攻撃を防ぐ反射的効果を有する場合がある、こういうことも従来申し上げておりますけれども、これ、あくまで自衛隊の武器等の防護によって生じる反射的な効果であると、こういう説明をさせていただいているところでございます」(第201回国会 参議院 外交防衛委員会 閉会後第1号 令和2年7月9日 槌道明宏 防衛省防衛政策局長答弁)
つまり、護衛艦と物理的に接近している他の船舶がいるような場合に、仮にミサイルが飛来し、護衛艦が自艦防護のために武器を使用してこれを迎撃したとすると、それが結果的に民間船舶をも防護したことになる、ということです。
したがって、たとえば海上自衛隊の護衛艦を、不測の事態に備えるため海上警備行動の発令を念頭に置いた情報収集活動のために派遣(防衛省設置法第4条18号)し、その護衛艦の乗員に「自分の艦を対象とした武器等防護のための武器使用」を命じます。そして、民間船舶をエスコートする形で並走していれば、仮にミサイルや無人機が飛来してきたとしても、これを迎撃することは可能です。しかも、これはあくまで「自艦防護」ですから、並走する船舶は必ずしも日本籍船に限る必要はないのです。
しかし、これはあくまでも「現行法で対処するならば」という頭の体操としてのお話であり、現場に派遣される護衛艦の乗員に対して、とてもではありませんが胸を張って「これで大丈夫だ!」と言えるようなものではありません。国際的な海上交通の恩恵を受ける日本が、いかにその安全を守る活動に堂々と寄与することが出来るのか、国会での真剣な議論と法改正が望まれます。