レーダーやミサイルを備えるイージス艦であっても、そのマストには19世紀に国際標準として整備された国際信号旗に基づく通信の伝統が今も受け継がれています。なぜ軍艦がアナログを使い続けるのか解説します。
電気も電池もいらない! 海の上の最強バックアップ通信
2月11日の建国記念の日、2月23日の天皇誕生日、11月1日の自衛隊記念日などには、全国各地の基地にいる自衛艦が、カラフルな旗を掲揚します。これは「満艦飾(まんかんしょく)」と呼ばれる飾り付けで、祝意を表すためのものです。
このとき用いられているのが、各艦に備え付けられている自衛艦旗と信号旗です。前者はマスト最上部に掲揚し、艦首からマストを経由して艦尾まで連ねるのは後者ですが、この信号旗のデザインは世界共通で、いまでも現役で用いられています。
信号旗は電源が落ちても、電波が使いにくくても伝えられる「究極のアナログ」といえるもので、旗は全部で40枚あります。内訳は、アルファベットを表す文字旗が26枚、数字旗が10枚、同じ旗を複数使うための代用旗(代用ペナント)が3枚、そして回答旗が1枚となっています。
これらを1枚から複数枚組み合わせて掲げることで、特定のメッセージを周囲に伝えることができます。例えばアルファベットの「U」の旗1枚なら「あなたは危険に向かっている」という意味になります。このシンプルさが、海の上では今でも何よりの安心材料になるのです。
電波を出さずに伝える 軍艦が旗を掲げる戦術的理由
特に護衛艦などの軍艦が旗を多用するのには、軍事的な理由があります。
それは、電波を出さずに意思疎通ができるという点です。無線などの電波は敵に傍受・分析され、自艦の位置や行動の手掛かりになるおそれがあるからです。
そのため、あえて無線を切る「無線沈黙」の状態でも、旗なら仲間と確実に連絡が取れます。また、旗は電波を出さないため敵の電波妨害(ジャミング)の影響も受けにくく、無線を控えたい場面でも使えます。
同時に、旗は船乗りたちの心を伝える役割も持っています。有名なのは「U」と「W」を組み合わせた「UW旗」で、「ご安航(安全な航海)を祈る」という意味が込められています。式典や訓練の節目に、願いを込めた信号旗が掲げられることもあります。
中でも特別なのが「Z旗」です。Z旗は国際信号旗としては本来、実務的な連絡に使う意味を持つ旗で、たとえば引き船(タグボート)など支援が必要な状況を伝える文脈で用いられます。
いっぽう日本では、日本海海戦で東郷平八郎が掲げた逸話によって広く知られており、「ここが勝負どころだ(大成功を期する)」という決意を象徴する旗じるしとして語り継がれてきました。
同じZ旗でも、国際標準の意味と、歴史や伝統に根ざした受け止め方が並行して存在している点が、信号旗の奥深さともいえるでしょう。