「動いている限り凍えない。でも…」 ナポレオンもナチスも阻んだ“冬将軍”は現代兵器にも容赦なし 80年前と変わらない“アナログ対策”の現実

人類が月面に再び立つ日も近い?

ロシア・ウクライナ戦争で戦場の様相を一変させたドローンですが、実は「低温」に弱いという弱点があります。ナポレオンやナチスドイツを苦しめた「冬将軍」は、現代のドローンにも厳しく、その対策は80年前と変わらないようです。

80年前と変わらない「冬将軍」との戦い

 1942年冬の東部戦線飛行場にて。

 ドイツ空軍は、「冬将軍」ともいわれる極寒で飛行機のエンジンが凍結し、始動できなくなっていました。それを見ていたソ連兵捕虜は「一発で始動させる方法を教えるから酒と食い物をくれ」と頼みます。彼は飛行機のエンジンの真下で焚き火を始めます。「すわ! 放火の破壊活動か」と慌てるドイツ兵をよそに、ソ連兵捕虜は動じません。やがてエンジンは始動に成功。酒にありつきます。

 ドイツ兵が早速真似をすると、飛行機を燃やしてしまいます。件のソ連兵捕虜にコツを聞くと、「そのコツが分かるまで飛行機が燃えるのは仕方がないです」と真顔で答えたとか。酒にありついて事実上破壊活動をしたという。実は策士だったのかもしれません。

 それから80年余――「冬将軍」との戦いが現代でも続いています。

 ロシア・ウクライナ戦争に大量投入されているドローン(無人航空機)。前線には偵察用やFPV(一人称視点)自爆ドローンが常時飛び交い、戦場はかつてないほど“透明化”されたといわれています。しかしそのドローンにも弱点があります。その一つが「低温」です。とりわけ民生品ベースの小型ドローンは、厳寒期において性能が目に見えて低下すると指摘されています。東欧の冬は氷点下20度に達することもあり、ドローンにとっても「冬将軍」は大敵なのです。

 ドローンは、バッテリーと電子機器の集合体です。特に小型ドローンの多くはリチウムポリマー(LiPo)電池を使用していますが、0~35℃での使用が最適とされ、低温下では内部抵抗が増し、出力が落ちます。電圧ドロップが発生しやすくなり、飛行時間も20~40%短縮するとされます。

 現場部隊では「うまく飛ぶかはロシアンルーレットのようだ」とも形容されています。飛行を開始してバッテリーが活性化すれば発熱しますが、能力を安定させるためには離陸前の加熱が必要です。

 そのためウクライナ軍では、離陸直前まで使い捨てカイロをバッテリーに巻き付ける、食料加熱容器にバッテリーや無線機器を保管する、バッテリーをガスコンロ近くで炙るなど、アナログな対策が取られていると伝えられています。やっていることは80年前と変わりません。

 低温の影響はバッテリーだけではありません。他にもブレードへの氷着・霜付着による推力低下、雪や霧による光学センサーの性能低下、ケーブルや基板の硬化・断線リスク、視界不良による目標識別能力の低下などが指摘されており、FPV(一人称視点)自爆ドローンは操縦者の視界に大きく依存するため、雪煙や低視程は命中精度に直結します。

低温には「一定の利点」も

 反面、低温は一定の利点ももたらします。周囲温度が低いほど人体やエンジンの熱源は際立ち、赤外線(IR)センサーのコントラストは向上します。特に夜間は探知効率が上がる場合もあります。また、冬季は植生が減少し、遮蔽物が少なくなるため、目標露出度も増します。つまり「飛ばしにくいが、見つけやすい」という二面性があるのです。

 重要なのは、戦場全体の「ドローン密度」が下がる可能性です。現状のウクライナ戦線は、砲兵によるピンポイント砲撃と歩兵の小部隊による浸透を繰り返す膠着した状態です。

 砲兵火力はドローン観測と一体化しており、目標発見、座標補正、着弾修正のループが高速化したことで、少ない弾数でも高い効果を発揮するようになりました。しかしドローンの密度が下がれば、この観測ループは断続的になります。砲兵観測効率の低下や命中精度のばらつきを招き、火力発揮の効率に影響を及ぼす可能性があります。一方で、夜間に熱源探知を活用した砲撃が増えるなど、時間帯ごとの戦術重心が変わることも考えられます。

 また、戦場の「透明度」にも曇りが生じます。常時監視網は部分的に薄くなり少人数部隊による浸透戦術の活発化、局地的な戦線流動化が起こります。ドローンの密度変化は作戦テンポそのものを左右しかねません。

 ドローンは物理的兵器であると同時に、心理的抑圧装置でもあります。前線兵士は常に上空を気にしています。もしドローンの飛来頻度が低下すれば、心理的圧迫が緩和され、移動や近接行動への意欲が高まる可能性もあります。これは戦場行動の質を変える二次的効果を生みます。

 宇宙・サイバー・電磁波領域まで拡張されたマルチドメイン戦が語られる現代においても、自然条件は依然として強大な制約要因です。ナポレオン軍もナチスドイツ軍も阻んだ冬将軍は、21世紀のドローンにも容赦ありません。戦場を支配したかに見える「ゲームチェンジャー」も、冬将軍に対抗するためには使い捨てカイロという生活用品に頼らざるを得ない――この事実は、現代戦の現実を象徴しています。

 ニューヨークタイムズが取材した前線のウクライナ軍砲兵は、「人間もドローンも動いている限り、凍えない。でも止まった瞬間、固まってしまう」「誰かが凍えているとしたら、そいつは働いていないということだ」と語ります。

 戦場を支配するのは、依然として自然です。