シンガポールの重工業メーカーが、機首から貨物を積み下ろしできる新型輸送UAS(無人航空機システム)を発表しました。離島や僻地が抱える物流問題の解決策として期待されており、日本の防衛分野でも同様の技術活用が検討されています。
まるでミニ「ベルーガ」な新型UAS
シンガポールの重工業メーカー「STエンジニアリング」が、2026年2月3日から8日まで同国の「チャンギ・エキシビションセンター」で開催された「シンガポールエアショー2026」で、新型の輸送用UAS(無人航空機システム)「Drn-600」を発表しました。
Drn-600はリチウムポリマーバッテリーを動力源とする電動UASで、機体両舷に設けられた8基のローターによる垂直離着陸(VTOL)能力を備えています。ローターを使用して垂直離着陸と水平飛行を行うUASは珍しくなくなっていますが、この方式ではローターが故障した際の安全性が懸念されています。
そうしたなかでDrn-600は飛行中に1~2基のローターが故障で停止しても飛行を継続できる冗長性を備えており、このタイプのUASとしては高い安全性を確保しています。
航続距離は貨物搭載量によって変わりますが、概ね70~100kmで、最大100kgの貨物を、胴体内に搭載できます。大きな特徴の一つと言えそうなのが、エアバスが航空機部品やヘリコプターなどの輸送に使用している特殊輸送機「ベルーガ」と同様、機首部が開閉可能となっている点で、そこから貨物の積み下ろしを行うことで、吊り下げネットによる輸送よりも容易かつ安全に貨物の積み下ろしを行うことができます。
Drn-600の開発は2024年ごろから行われており、2026年の第2四半期の初飛行、2028年の認証取得を目指しています。
また、このDrn-600はアメリカのUAS企業「エア・インク」との共同開発機ですが、STエンジニアリングはより小型の輸送用UASの開発を行っており、シンガポールエアショーではより小型の輸送用UASの実機や、より大型のVTOL型輸送用UASのコンセプトモデルも展示されていました。
離島が多い国の「物流問題」解決の切り札に
STエンジニアリングはこれらのUASを組み合わせた輸送システム「Dronet」の社会実装を目指しています。
都市国家のシンガポールは国土こそ小さいものの、日本でも人気の高いリゾート地のセントーサ島をはじめとする離島を数多く抱えています。現時点で離島への貨物の輸送は中心部のマリーナ・サウスピアや、チャンギ・エキシビションセンターにほど近いチャンギポイントなどからのフェリーによる輸送に依存しています。
しかし、フェリーの運航コストの上昇に加え、絶対的人口数が少ないシンガポールではフェリーの運航要員の確保も困難になりつつあるようです。
電動UASではまだ大きな貨物の大量輸送は困難なのですが、緊急性の高い物資、たとえば医薬品などを離島部へフェリーより早く、かつ安いコストで届ける能力は十分備えており、シンガポール政府とSTエンジニアリングは「Dronet」をまず離島部への貨物輸送で活用し、その後に本土内での貨物輸送へと拡大していきたいようです。
もちろん日本も「軍民両用」で検討
シンガポールエアショーでは中国の「ユナイテッド・エアクラフト・テクノロジー」が開発した輸送用UAS「T1400」の展示も行われていました。
T1400は陸上自衛隊なども運用している輸送用ヘリコプター、CH-47「チヌーク」と同様、機体前後の2基のローターで垂直離着陸と水平飛行を行うタンデムローター型のUASで、貨物はDrn-600と同様、胴体内へ搭載されます。
中国は離島だけでなく、交通の便の悪い山間部などの僻地も数多く抱えており、ユナイテッド・エアクラフト・テクノロジーの担当者は、これらの地域への安価で人的資源への負担の小さい物資輸送の手段として、T1400には需要があるのではないかとの見方を示していました。
そして、Drn-600もT1400も軍事用途での活用も検討されています。メーカーはその点を前面に出してはいなかったものの、輸送用UASの防衛分野での活用は日本でも試みが始まっています。
防衛装備庁は2025年12月18日に「離島における兵站支援上の課題の克服に必要な無人航空アセットの主要性能及び機体システムの検討に係る技術検討役務」の一般競争入札の公告を行っています。これは、船舶やヘリコプターなどで行ってきた離島部の部隊への物資輸送にUASを使用するにあたって、UASに求められる性能などを策定するために行われたものと考えられます。
陸上自衛隊はアメリカのサイトテックが開発した、最大50kgの物資の輸送が可能な輸送用UAS「KAYANA1750」や、やはりアメリカのエルロイ・エアが開発したVTOL型輸送用UASの検証を行っています。
三菱重工業もヤマハ発動機とタッグを組み、ガソリンエンジンで発電した電力で飛行することで、電動UASよりも長い航続距離(最大200km)と大きな貨物搭載量(最大200kg)の実現を目指すハイブリッド型輸送用UASの開発を進めており、2025年7月にはバッテリー駆動型の輸送用UASが、陸上自衛隊の首都直下型地震の救援を想定した訓練に参加しています。
日本も中国と同様、離島部や僻地を数多く抱えており、こうした地域への物流確保に不可欠な輸送手段の人員確保も、少子高齢化で困難になりつつあります。この状況を打開するための手段として、輸送用UASは防衛分野での活用だけでなく、民間分野での活用も、積極的に行われていくべくだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。