東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で全村避難指示が出た福島県飯舘村で昨年末、オオカミ信仰で知られる山津見神社の例大祭が15年ぶりに震災前の規模で復活した。実行委員の矢野淳さん(30)は村内外から約6000人が集い、かつてのにぎわいを取り戻した伝統行事を見て、「村を思う人たちで新しい地域を作っていきたい」との思いを強めたという。
矢野さんは東京在住だった高校時代、被災地再生の活動を続ける家族の影響で自然豊かな飯舘村に興味を持った。大学卒業後に移住し、村の再生と発展に向け、アーティストとの交流やイベントなどを手掛ける会社を興した。
実行委員に手を挙げたのは2025年1月、地域の新年会で老人会の男性が「祭りの茶屋と屋台を復活させたい」と話すのを耳にしたからだ。ただ、約6200人の住民の半数近くはほかの自治体で避難生活を続け、戻った村民も高齢化。村内外から2万~3万人が訪れるほどだった大きな祭りを地元の村民の力だけで復活させるのは現実的ではなかった。
以前の祭りの光景を知る村民や移住者らも加わった実行委員会のメンバーは、村外の知人や大学生を誘うなどしてスタッフ約60人を確保した。資金はクラウドファンディング(CF)などで調達。CFに不慣れな高齢者も銀行振り込みで協力してくれるなどし、目標の500万円を集めた。
縁日に欠かせない露天商集めにも力を入れた。かつての出店者に声を掛けると半数以上が参加を決断。村内で事業を営む人たちも加わることになった。
昨年12月4日、かつてと同様の3日間の日程で例大祭が始まった。32の屋台が境内をにぎやかにし、名物だった茅屋根の茶店で温かい料理が振る舞われた。村民らに笑顔があふれた。日本の神話と村の歴史を重ねたストーリーの演劇も好評で、「私たちの話をしてくれてありがとう」と涙を流す住民もいたという。
今後も村を拠点に、新しいことに挑戦していくという矢野さん。「昔の文脈を捉えつつ、若い人にも面白い場所として選んでもらえる場所にしたい」と笑顔を見せた。
〔写真説明〕山津見神社の例大祭で実行委員を務めた矢野淳さん=2月6日、福島県飯舘村
〔写真説明〕東日本大震災前の規模で復活した山津見神社の例大祭=2025年12月、福島県飯舘村