2025年、日本の兵器、装備品開発で明るいニュースと言えば、レールガンの洋上試験成功があげられます。とは言っても世界各国、特にアメリカの長い取り組みがあっても、まだまだ完成へのハードルが高い兵器です。そんなレールガンの開発状況を、改めて整理してみましょう。
防衛省が洋上試験成功を発表
「レールガン」という単語を耳にしたことがある方も多いでしょう。これは2000年代に入る頃からアメリカ海軍で研究が始まった、いわゆる「次世代兵器」の一種で、その後ヨーロッパでも独仏が共同研究に着手しました。また中国やインドも開発に名乗りを上げている兵器です。
そして、意外に思われるかもしれませんが、レールガン研究では日本もフロントランナーです。より正確に言うならば、実用化に向けてもっとも先行している国のひとつなのです。
そもそも、レールガンは「Electromagnetic Railgun」と表記し、日本語では「電磁加速砲」と訳すのが一般的です。基本的な原理は、列車のレール状に配置された2本の導体間に電流を流し、発生する電磁気力(ローレンツ力)に乗せてレールの間から弾体を発射する仕組みです。電磁石を用いて高速移動できるリニアモーターカーと根本は同じもので、乗りものを動かすのではなく、弾を高速で撃ち出し、遠く離れた目標まで飛ばして命中させるものになります。
原理自体は20世紀初頭に発見されており、冷戦時代から研究されていました。しかし数百万アンペアもの膨大な電力を瞬時に、かつ連続して発生させる必要があります。他にも要求される技術の壁が高く、理論ばかりが先行した「夢の兵器」という時期が続いていました。
日本のレールガン開発を主導しているのが、防衛装備庁に属するATLA(陸上装備研究所/地上システム研究センター)です。2016年から2022年度にかけて、ATLAでは口径40mmの弾体を初速2300m/秒で発射するのに成功しました。時速に直すと8280km/h、音速に換算するとマッハ7にもなるスピードです。同口径の従来型火砲と比較すると3倍に迫る初速であり、これまでとは別次元の砲兵器であることが分かるでしょう。射程も理論値で100kmを超えますが、これは大和型戦艦の主砲の倍以上の数値です。
2025年4月には試験艦「あすか」への搭載が公表されたのに続き、夏には標的船への射撃にも成功しました。今後は安定射撃や速射性、整備性など、実用化を目指した試験に移行することになっています。
アメリカはレールガン開発を凍結中
では、なぜレールガンは海軍兵器の「ゲームチェンジャー」となることが期待されているのでしょうか。その理由は、主に「弾薬の安全性」「コスト/搭載数」「長射程/高初速」の3つが挙げられます。
・弾薬の安全性
従来の艦砲やミサイルは可燃性の炸薬を大量に使用します。しかしレールガンは基本的に爆薬を使わない金属製弾体なので、艦が被弾した時の二次爆発のリスクが低く、安全性が向上します。
・コスト/搭載数
レールガンは、艦載ミサイルの百分の一程度の発射コストを目指しています。結果、対艦ミサイルやドローンの飽和攻撃を低コストで迎撃できるようになります。
・長射程/高初速
マッハ6を超える速度の弾体を使えば、迎撃までの弾着時間を短くできるので、弾道ミサイルや極超音速兵器の迎撃能力が期待されます。
これほどの可能性を秘めた兵器ですが、意外にも、早くから研究に着手していたアメリカは手こずっていました。かつてはズムヴォルト級ミサイル駆逐艦の目玉兵器になるというロードマップも示されていましたが、2020年代に入って間もなく、レールガンの開発計画が凍結されてしまいます。
開発を主導したアメリカ海軍は、このプロジェクト見直しの理由に、発射に必要な電力の蓄積と安定供給が難しいこと。また砲身の摩耗が早すぎるという問題を挙げていました。こうしたことから、艦上で繰り返し使用する兵器に仕立てるのが、現状では困難と評価したのです。
ただし、レールガンの利点は明らかなので、研究過程で認められた電磁加速機や、高速投射弾の制御の応用研究は続けている模様です。
ひるがえって日本はというと、冒頭に記した各種試験についても、実はかつてアメリカが諦めた段階まで、ようやくたどり着いたというのが実態です。大事なのは、ここから地道に、かつ集中的にレールガンの実用化研究を続けて、ノウハウを蓄積しておくことでしょう。
ここで先へ行くことができれば、アメリカを引き離し実用化へと着実に近づくことができます。日本を取り巻く安全保障環境は、厳しさを増すことはあっても、脅威が減ることはほぼないでしょう。
レールガンの完成度を増すことができれば、それは日本の防衛にとって強力な「切り札」になりうることは間違いないと、筆者(宮永忠将(戦史研究家:軍事系Youtuber))は考えます。