海上自衛隊向けに建造中のイージス・システム搭載艦(ASEV)。その中核となるSPY-7レーダーの重要部品を、富士通が国内製造することになりました。ただ、その裏には、後に光次期イージス艦のレーダー選定が大きく絡んでいました。
ASEV用の米国製重要部品を富士通が生産へ
富士通とロッキード・マーティンは2月12日、海上自衛隊のイージス・システム搭載艦(ASEV)向けSPY-7レーダーの構成品に関する購入契約の締結式を東京都内で実施しました。対象となったのは、SPY-7のレーダーモジュール部分、具体的には「サブアレイスイート(電波送受信モジュール)」と呼ばれる装置に電力供給を担う「Subarray Suite Power Supply Line Replaceable Unit(PS LRU)」と呼ばれるものです。
すでにロッキード・マーティンは、2025年5月にSPY-7レーダーのPS LRUの供給者として富士通を選定し、戦略的パートナーシップに関するMOUまで行っています。今回、このMOUに基づく最初の契約を結んだ富士通は、PS LRUを国内の工場で製造し、ロッキード・マーティンに納入することになります。
そもそも、今回MOUを締結したPS LRUを搭載するASEVは、2020年に計画中止となった陸上配備型イージス・システム、いわゆる「イージス・アショア」の代わりに建造が決まった大型の護衛艦です。
船体には、そのためのSPY-7レーダーとイージス・システムに加え、垂直発射システム(VLS)128セルなどを搭載。イージス艦と同等以上の戦闘能力や機動力を持たせるとともに、国産の新型対艦ミサイル(12式地対艦誘導弾能力向上型)や極超音速滑空兵器(HGV)迎撃ミサイルなどの装備まで搭載できる拡張性も考慮した結果、基準排水量が約1万2000トンという、海自屈指の大型水上戦闘艦となりました。
なお、すでに1番艦は三菱重工業で、2番艦はジャパンマリンユナイテッドで建造が進められており、各々2027年度と2028年度に就役する計画です。
こんごう型の後継艦向けでライバルと熾烈な受注合戦
一方、ASEVとは別に、2022年12月決定の防衛力整備計画では、海上自衛隊のイージス・システム搭載護衛艦(イージス艦)を10隻にすることが明記されています。内訳は、4隻が既存のあたご型とまや型、4隻が老朽化したこんごう型の後継艦、そして2隻が新規増勢分になります。
この、こんごう型後継艦(DDGX)に関しては、防衛省内で現在、さまざまな検討が進められています。そのひとつが2025年度からの「イージス艦に関する調査研究」で、搭載するイージス・システムとレーダーに関する技術調査が主な内容です。
そのようななか、搭載レーダーの候補として名前が挙がっているのが、前出のロッキード・マーティン製SPY-7と、RTX(レイセオン)のSPY-6です。技術的な説明は省きますが、どちらを選択しても現在のイージス艦が搭載するSPY-1レーダーに比べ探知性能は大きく向上するため、性能面では優劣はないといわれています。
さらに、あたご型とまや型についても、将来的にSPY-1を新たなレーダーに換装する必要があります。共通性を重視すると、DDGXに採用されたレーダーが以降のイージス艦へのアップデート用に採用される公算が高いでしょう。
では、性能面で大きな差がないとすれば、ふたつのレーダーのセールスポイントは何でしょうか。
簡単にまとめれば、SPY-6はアメリカ海軍の次世代水上戦闘艦に搭載されるだけでなく、既存のイージス艦(アーレイバーク級ミサイル駆逐艦)の換装にも用いられるレーダーであり、日米間の相互運用性に優れている点が挙げられます。
一方、SPY-7はASEVに加えDDGXと増勢分の新型イージス艦に採用することによるスケールメリット、と言えるのではないでしょうか。
カギを握るのか 日本企業との協力関係
このように、SPY-6とSPY-7は、セールスポイントにそれぞれ合理性があることから、両陣営では、新たなセールスポイントとして、日本企業と協力関係を築き、日本の防衛生産基盤に貢献することを重視しているようです。もちろん日本企業と協力関係を構築することで、米国外における自社のサプライチェーンの強化にもつながります。
この点で先行しているのがRTXです。すでに、2024年9月には三菱電機および三波工業とアメリカ海軍向けSPY-6の製造参画に関する合意文書を交わしており、日本企業2社が同レーダーのコンポーネントを生産することが決まりました。
これに対し、前述したようにロッキード・マーティンは、富士通とSPY-7のPS LRUの購入契約をこのたび締結しています。現状では海上自衛隊のASEV搭載用SPY-7向けにとどまるものの、両社は、第三国向けの輸出や富士通の担当部位の拡大についても協議を進める考えです。
こうした両陣営による日本企業との協力関係が、DDGX以降のイージス艦のレーダー選定にどのような影響を及ぼすのか、筆者(小林春彦:月刊『軍事研究』記者)は引き続き注目していきます。