バス停の名前には不思議がいっぱいです。「車庫前」なのに車庫がない、なんてことは序の口。実は「〇〇さん宅前」なんて個人名のバス停まで存在します。誰がどう決めているのか、その知られざる裏側に迫ります。
バス停の名称は誰が決めている? 驚きの「個人宅名」バス停とは
和歌山県にはかつて、近くにバスの車庫がないにもかかわらず、約50年ものあいだ「車庫前」と名乗り続けたバス停がありました。
また東京都内にも、目印となるはずの水道タンクが撤去されたあとでも、「水道タンク裏」という名前で残り続けているバス停が存在します。
なぜ、実態と合わなくなっても名前はすぐに変わらないのでしょうか。
そもそも、バス停の名前はいったい誰が決めているのでしょうか。国や自治体が一律に決めていると思いきや、実はそうではありません。基本的には、バスを運行するバス会社が決めています。
ルールは至ってシンプルで、今どこにいるかわかりやすいことが最優先です。そのため、地名や近くの目印となる施設名を付けるのが一般的です。
この目印の基準は、地元の感覚に合わせてかなり柔軟に決められます。その最たる例が、北海道などの地方で見られる個人名がついたバス停でしょう。
なんと「鈴木宅前」や「佐藤宅前」といった具合に、個人の家の名前がそのままバス停名になっていることがあります。
周りに目印となる建物が何もない場所では、個人宅が唯一無二のランドマークとして機能しているため、こうした命名が用いられるのです。これなどは、バス会社が独自に名前を決められるからこその珍事といえるでしょう。
また最近では、この「名前を決める権利」そのものを商品にする動きもあります。いわゆるネーミングライツです。
企業などが広告料を払ってバス停に名前を入れる仕組みで、栃木県矢板市のように年間1万円から契約できる手軽なものから、利用者の多い都市部では年額数十万円もする一等地まで、その相場はさまざまです。
変えるに変えられない? バス停名が”タイムカプセル”になるワケ
このように、バス停の名前は意外と自由に付けられている側面があります。
では冒頭の疑問に戻りましょう。なぜ、施設がなくなっても車庫前や水道タンク裏という名前は変わらないのでしょうか。
そこには、バス会社の切実な“ふところ事情”があります。名前を変えるには、想像以上に多額のコストがかかるからです。
バス停の名前をひとつ変えるだけでも、現地の標識ポールを書き換えるだけでは済みません。路線図の更新、車内放送の録り直し、運賃データの修正など、影響する範囲は多岐にわたります。
ある自治体の試算によれば、時刻表を作り直して必要なところに配布するだけでも約130万円もの費用がかかるとか。そのため、施設がなくなったからといって、おいそれと名前を変えるわけにはいきません。よほどのタイミングでない限り、古い名前がそのまま使い続けられることになるのです。
しかし、これは悪いことばかりではありません。結果として、バス停は街の歴史を現代に伝える「タイムカプセル」のような役割を果たすことになるからです。
たとえば長野県にある「女体入口(にょたいいりぐち)」というドキッとする名前のバス停。これは、かつて近くに存在した「女体」という集落の名残だといわれています。
地図からは消えてしまった地名や、かつてそこにあった施設の記憶が、バス停の名前にだけひっそりと刻まれて後世に残り続けます。
そう考えると、街で見かける「実態と合わない不思議なバス停」も、また違った風情を持って見えてくるのではないでしょうか。