中古車販売と兼業でレンタカー事業を行っていた会社が、国交省から事業許可を取り消されました。車検切れの車両を1年間で232回も貸し渡していたことが明らかになっています。利用者に対策法はあるのでしょうか。
レンタカーで事故したら「無車検・無保険」だった!?
クルマを車検切れのまま走らせることは、そもそも違法ですが、レンタカー事業で車検切れの車両の貸し出しを続けることは、これまで想定されていませんでした。しかし、国土交通省物流・自動車局が2025年12月22日にレンタカー事業の取り消しを行ったケースは、今後のレンタカー事業のあり方を考えさせるものです。
自家用、事業用に限らず、複数の車両を持っているケースで緩い車両管理が行われている場合は、ついうっかり車検切れとなっていることがあります。特に自社で車両整備を行っている場合は車検切れを指摘されることがないまま、見逃していることがあります。
しかし、今回はあろうことか貸出用のレンタカーです。国交省長崎運輸支局が確定した道路運送法の違反行為の概要は次のようなものでした。
事件が起きたのは、熊本県熊本市西区にある「ガッツレンタカー熊本駅前店」です。全国展開するガッツレンタカーは運営会社であるガッツ・ジャパンがフランチャイズ契約で店舗を拡大していて、違反当時に加盟店契約をしていたのが「有限会社エーシーエス」(水上貴洋社長)でした。
長崎運輸支局は2024年5月23日から2025年5月22日の1年間を対象に、エーシーエスの営業状態を監査。期間中に車検切れだった31台の車両で合計232回の貸渡しが行われていることが判明しました。これだけ長期にわたり車検切れ車両で営業していたことは驚くべきことです。
違反行為が発覚したきっかけは、利用者の一人が2024年11月に阿蘇市の国道で物損事故を起こし、熊本県警がレンタカーの無車検を知ったことでした。車検と自賠責保険は連動しているため、事故車は無車検・無保険でした。
約7か月間の捜査を続けた熊本県警は、熊本駅前店の店長を2025年4月に逮捕。道路運送車両法違反(無車検)と自動車損害賠償保障法違反(無保険)の疑いで略式起訴され、翌5月、熊本簡易裁判所は罰金50万円の略式命令を出しています。
ガッツレンタカーはエーシーエスとのフランチャイズ契約を解除。新たなフランチャイズ契約で現在も営業が続けられています。
え、それでも再開するの…?
今回の国交省長崎運輸支局の行政処分は、店長個人ではなく、レンタカー事業会社であるエーシーエスに対して行われた取り消しです。同社は自社サイトに「お客さまならびに関係者各位」と題した謝罪を掲載しています。
「長崎県時津町にて当社が運営しておりましたレンタカー事業につきましては、2013年4月25日の許可取得以降、行政処分や警告を受けた事実は一切ございませんでしたが、今回の事案を厳粛に受け止め、信頼回復および再発防止体制の再整備を目的として、当面の間、営業を見合わせております」
当時、同社はガッツレンタカーとフランチャイズ契約を結んで熊本市で営業を行う一方で、本拠地である長崎県時津町でも営業をしていました。当面の営業を見合わせるという内容のあとには、「本件につきまして、当社は所管官庁よりレンタカー事業の許可取消処分を受けております」と明記しますが、さらに「当社といたしましては、当該処分を厳粛に受け止め、これを自らの重大な課題として深く認識し、再発防止および管理体制の抜本的な改善に全力で取り組むとともに、法令遵守を最優先とした事業運営の徹底に努めてまいります」と、自社でのレンタカー事業の継続を思わせる記載をしています。
これに対して国交省物流・自動車局は「レンタカー事業の許可取消は事業者に対して行われている。処分後2年間はレンタカー事業の申請はできない」と、処分の内容を説明します。
「安心して借りられるように」の決め手無し
レンタカーの利用者は、万が一の事故に備えて事業者から複数の書類にサインを求められて、賠償責任を負います。利用者が車検切れに気が付かずに事故を起こした場合には、レンタカー事業者と共に、被害者救済の責任を問われる可能性があります。
というのも、道路運送車両法では運転者が車検証を確認する義務があり、フロントガラスに貼ってある検査標章(車検ステッカー)で有効期限がわかるからです。
国交省物流・自動車局でレンタカー事業を担当するモビリティサービス推進課は次のように話します。
「今回のケースは非常に悪質である。こうしたケースを防ぐために、安心してレンタカーを借りられるようにすることを考える」
しかし、訪日旅行者が増える中で、新規参入事業者が急激に増えるレンタカー事業に対して、車検切れ車両の貸し出し防止には決め手を欠いた状態のままです。レンタカー事業を兼業として行う事業者で、販売とレンタカー車両の線引きがあいまいなケースもあります。
レンタカー事業の責任は誰が追うのか。現場に一任している体制があった場合、事業者にどのような改善を促すことができるのか。利用者目線では、何も対策が示されていません。