1994年3月の細川護熙首相の中国訪問に際し、同国政府が台湾問題で善処するよう日本政府に再三求めていたことが、24日公表の外交文書で明らかになった。日中関係の悪化を懸念した日本の外交当局は、中国への配慮を首相側に進言した。(肩書は当時)
中国は現在、台湾問題を「核心的利益の中の核心」と主張。高市早苗首相の「台湾有事」発言を繰り返し批判しているが、当時から神経をとがらせていた様子がうかがえる。
94年時点で中国は各国に対し、台湾との経済交流こそ容認したものの、「公的関係」は否定する立場を取っていた。しかし、台湾側は要人の海外訪問を活発化させ、2月には李登輝総統が休暇名目で東南アジアを歴訪。これに中国側は危機感を強めた。
外交文書によると、3月中旬に中国外務省の唐家※(王ヘンに旋)次官が国広道彦・駐中国大使と面会し、李氏の東南アジア訪問を「休暇外交」と断じた。国広氏は「わが国に対して行われたものではない」と返答したが、唐氏は「李氏が(母校の)京都大の同窓会に出席するため訪日するようなことがあれば大変なことになる」とクギを刺した。
中国側は、これに先立つ1月の日中外相会談で、台湾との「公的往来は許されない」と主張。同時期の高官協議でも、日本の政務次官が台湾を訪問したことに「国民感情が悪くなる」と不快感を示した。
一連の要請を踏まえ、国広氏は羽田孜外相に公電を送り、日中首脳会談での台湾問題の扱いに関し、「先方発言を待つことなく、わが方より立場を明確に述べていただくことが得策」などと意見具申した。
外務省中国課も「日中関係諸懸案(不安定化要因)」と題する文書で、閣僚の訪台や李氏の来日は中国側の反発を招くと指摘。「台湾問題は一歩対処を誤れば日中関係の根幹を揺るがしかねないデリケートな問題で、引き続き慎重な対応が必要」と記した。
日中首脳会談は3月20日に行われた。李鵬首相は「台湾が貴国を休暇外交の対象とするか否かは不明だが、そのようなことが起こらないよう希望する」などと発言。細川首相は「日中共同声明の順守」と「(日台の)非政府間の実務的な関係の維持」を約束した。