11月末にインドネシア西部スマトラ島を襲った豪雨から間もなく1カ月。国家災害対策庁によると、死者が1100人を超える中、復旧は遅れ依然として約50万人が避難生活を続けている。インドネシア政府は海外からの支援受け入れをかたくなに拒んでおり、被災者は不満を募らせている。
◇過去最悪の洪水
21日、同島北部のアチェ州アチェタミアンにあるイスラム系寄宿学校には、洪水で運ばれてきた大量の木が残ったままになっていた。一面に広がる「流木の海」の中に立つモスク(イスラム礼拝所)には多くの人が訪れ、写真を撮っていた。
発生から1カ月がたとうとする中、ようやく前日に重機を使った流木の撤去に着手。現場にいた政府職員によると、これまで作業が始まらなかったのは、流木の出所に関する警察の捜査が続いていたためだという。
「間違いなく過去最悪の洪水だった」。学校の隣の家で被災した大学生のムハンマド・イズディンさん(29)はこう振り返る。11月26日の朝、これまで経験したことのない速さで水が流れていくのを見て、家族での避難を決断。自宅は1階部分のほとんどが泥水に漬かったため、避難生活が続いている。
イズディンさんによると、過去の洪水ではこれほど大量の木が流されてきたことはなかった。環境団体は発生直後から、森林の伐採やアブラヤシ農園への転換が被害に拍車を掛けたと指摘している。
◇国際支援求める声
アチェタミアンでは、市場や病院が再開するなど徐々に復旧が進む一方、車道沿いにはバケツやかごを手に支援物資を求める人が並んでいた。車が止まりトランクが開くと、物資をもらえると思った被災者が押し寄せてきた。
インドネシア政府は外国政府からの支援申し入れを断っているが、被災地では「政府にとって都合の悪い事実を知られたくないのでは」との見方まで出ている。一部の環境団体は、プラボウォ大統領に近い企業がスマトラ島でプランテーションを所有していると指摘している。
洪水により川沿いの集落で被災したサリムさん(38)は、家族ら10人余りと身を寄せ合い損壊した自宅での生活を続けている。食料などは足りていると話す一方で、「家の再建はインドネシアだけだと2年かけても終わるか分からない。外国の支援が必要だ」と訴えた。(アチェタミアン=インドネシア=時事)。
〔写真説明〕流木の撤去が進むイスラム系寄宿学校のモスク(イスラム礼拝所)=21日、インドネシア西部アチェ州アチェタミアン
〔写真説明〕車から支援を受け取る住民=20日、インドネシア西部アチェ州アチェタミアン
〔写真説明〕ブルーシートの屋根の下で避難生活を送る家族=20日、インドネシア西部アチェ州アチェタミアン