「目的外使用の禁止」に懸念=開示証拠の報道、困難に―再審巡る法制審部会素案

 法務省の法制審議会部会で事務局が示した素案には、再審請求で捜査機関から開示された証拠の「目的外使用の禁止」が罰則付きで盛り込まれた。識者は、請求人側が無罪を示すと考えた証拠を報道機関や支援者に提供し、社会的に議論することが難しくなると懸念する。
 提示された素案は、開示証拠の使用目的を再審請求手続きやその準備などに限定。それ以外の目的で他人に見せたり、提供したりすれば、請求人や代理人弁護士に1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金を科すとした。
 公開が原則の刑事裁判では、開示証拠の目的外使用禁止は既に導入されている。しかし再審請求は審理が非公開のため、開示証拠の報道などができなくなれば、これまで以上に内容が分からなくなる恐れが指摘されている。
 昨年無罪が確定した袴田巌さん(89)のケースでは、血痕付き衣類のカラー写真などが開示され、再審開始を決定付ける重要証拠となった。沢康臣・早稲田大教授は「市民が知ることを事実上禁止する措置で、再審請求手続きがますますブラックボックス化する」と話す。
 このほか、再審請求の審理開始の可否は提出された新証拠や書面だけで判断し、理由がない場合は棄却しなければならないとする規定も新設。開始決定後でなければ、証拠開示を含む事実の取り調べができないとした。
 しかし、部会でこの規定を提案したのは議決権のないメンバーの学者1人だけ。袴田さんの再審開始を決めた元裁判官で、部会委員を務める村山浩昭弁護士は「再審請求の速やかな棄却を量産する仕組みだ。改悪が現実味を帯びている」と語る。
 同じく委員の鴨志田祐美弁護士も「裁判官の裁量で開示された証拠により再審開始となった例は多い。それより前の段階で先に進ませないという内容だ」と批判。裁判所が検察側に証拠開示を求めた結果、新証拠の存在が明らかになり、再審無罪につながった東京電力女性社員殺害事件のようなケースが今後は対象外になりかねないと危惧した。 
〔写真説明〕「袴田事件」の約1年2カ月後にみそタンクから見つかり犯行時の着衣とされた衣類の血痕(右)と、検察側の実験で変色した血痕=2022年11月、静岡市葵区