「がんに強い免疫つくりたい」=転移減少も目指す―11日未明、授賞式・坂口さん

 過剰な免疫を抑制する「制御性T細胞」を発見し、10日(日本時間11日未明)にスウェーデン・ストックホルムでノーベル賞授賞式に臨む大阪大の坂口志文特任教授が、日本出発前に時事通信のインタビューに応じた。同細胞は臨床応用に向けて動きだしており、今後の展望について「がん細胞に強い免疫をつくれるかが課題だ」と指摘。「ゆくゆくは転移の可能性を減らしたい」と語った。
 坂口さんは同細胞を用いた治療法確立に向け、米国でスタートアップ企業「レグセル」を設立。来年から正常な細胞や組織を攻撃する自己免疫疾患を対象に臨床試験を始める見通しという。
 目指す治療薬は「口から飲めて、制御性T細胞の数を操作して免疫応答を高められる薬」とした上で、「がんで亡くなる人の90%は転移によるもの。どんながんにも使える薬を開発して、転移の確率を下げていきたい」と語った。
 今後の自身の研究テーマについて、一度感染すると再びかかりにくくなるはしかなどを例に、「がん細胞にもそういう強い免疫がつくれるかが課題だ」と説明。制御性T細胞をコントロールしてがんを攻撃するリンパ球を強くするなど、「さまざまな組み合わせで効果的な免疫療法を実現したい」と述べた。
 現在、自己免疫疾患の治療で使われている免疫抑制剤は、反応全体を抑えるためかぜや感染症などにもかかりやすくなる。坂口さんは「特定の疾患だけを抑える治療は、まだ免疫学で達成できていない。制御性T細胞を人工的に作製する技術で、こうした治療法を確立させたい」とした。
 一方、研究力の低下が指摘されている日本の現状については、「長期にわたる支援制度があまりない」と指摘。坂口さんが1980年代に米国へ拠点を移した際は、8年間にわたって奨学金を受けられたという。
 「五輪のスポーツ支援と同様で、サイエンスもちゃんとした種をまいてサポートすれば、必ず強いものが出てくる」と強調。政府や社会による支援が必要だと訴えた。 
〔写真説明〕インタビューに応じる大阪大の坂口志文特任教授=11月13日、大阪府吹田市