陸上自衛隊の10式戦車に搭載が検討されているアクティブ防護システム(APS)の選定が難航している模様です。有力候補と見られていたシステムが相次いで検証対象から外された背景には、何があるのでしょうか。
33年ぶりの新造戦車にも搭載される“最強の盾”
ドイツの防衛大手「クラウス・マッファイ・ヴェクマン」(KMW)とフランスの防衛大手「ネクスター」(Nexter)の合弁企業であるKNDS(KMW+Nexter Defense Systems)は2025年11月19日、ドイツ連邦陸軍向けの戦車「レオパルト2A8」を初めて公開しました。
ドイツ連邦陸軍は2025年12月現在、レオパルト2A7戦車を104両、同2A6戦車を172両、同2A5戦車を19両保有しています。2A7と2A6は、2A5とそれ以前の冷戦期に大量生産されたレオパルトA4に改修を加える形で開発されていますので、新型の2A8は、1992年にレオパルトA5が納入されて以来、33年ぶりにドイツ連邦陸軍が導入する新造戦車ということになります。
新造戦車らしく、レオパルト2A8には数々の新機軸が盛り込まれています。その一つがアクティブ防護システム「ユーロトロフィー」です。
アクティブ防護システムとは、レーダーでドローンや対戦車ミサイルの接近を感知すると、コンピュータが接近してくる物体の方向量を計算して、自動的に迎撃体を発射するシステムです。ユーロトロフィーは、原型の「トロフィー」を開発したイスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズとKNDS、アメリカのジェネラル・ダイナミクスのヨーロッパ法人であるジェネラル・ダイナミクス・ヨーロピアン・ランドシステムズによる合弁企業「ユーロトロフィー」によって供給されています。
トロフィーは火器管制レーダーと迎撃体発射装置から構成されており、4枚のフラットパネルレーダーにより360度の全方位を監視。搭載車両に対する攻撃を探知すると、車体側面上部に搭載された回転式迎撃発射装置から金属製の迎撃体を発射して、ドローンやミサイルを迎撃します。
トロフィーは2010年からイスラエル国防軍のメルカバ戦車やナメル装甲兵員輸送車への装備が開始されており、2011年に実戦で迎撃に成功。実地試験を含む発射回数は5400回、運用時間は100万時間を突破しています。ドイツ以外のヨーロッパ諸国からも引き合いが殺到しているレオパルト2A8に加えて、アメリカはM1エイブラムス戦車用、イギリスもチャレンジャー3戦車用にそれぞれ採用を決定しています。
実績とセールスの両面で、トロフィーは自由主義陣営諸国のアクティブ防護システムの中で、最も成功していると言っても過言ではないでしょう。
アクティブ防護システムは日本も導入する動きがありますが、選定が難航している模様です。
陸自も導入検討…しかし有力候補がなぜか除外?
防衛装備庁は2024年10月に、陸上自衛隊の運用する10式戦車への搭載を前提とする「装甲戦闘車両のアクティブ防護システム搭載に関する概念実証業務委託」の一般競争入札を公告しています。
この一般競争入札は不調に終わったようで、結局12月の仕切り直し入札でトロフィーのメーカーであるラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが「1円」で落札しているのですが、防衛装備庁は検証を対象とするアクティブ防護システムから、トロフィーを除外しています。これはいったい何故なのでしょうか。
トロフィーには、同一方向から連続して飛来する対戦車弾に対する迎撃能力と、APFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)のような高速で飛翔する運動エネルギー弾への迎撃能力が弱いという難点があります。
他方、イスラエルのIMI(Israel Military Industries)が開発を進めている「アイアンフィスト」は、運動エネルギー弾への対処も目指しており、アイアンフィストを導入したアメリカ陸軍は改良を加えて、当初は50%程度だった迎撃成功率を、70%程度にまで上昇させたと報じられています。
国際情勢への“配慮”か?
陸上自衛隊がアクティブ防護システムに、同一方向からの連続攻撃や、運動エネルギー弾への対処能力を重視しているのであれば、トロフィーを除外するのもうなずけますが、実のところ前に述べた2024年10月入札後の12月に行われた再公告入札の検証対象からは、アイアンフィストも除外されています。
防衛装備庁は最初の入札が不調に終わった理由と、検証対象とするアクティブ防護システムの選定理由を明らかにしていませんので、これは筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)の推測でしかないのですが、おそらくアイアンフィストの除外は、パレスチナのガザ地区に対するイスラエルの姿勢に対する世論の反発を考慮してのことなのではないかと思います。
「装甲戦闘車両のアクティブ防護システム搭載に関する概念実証業務」と同じ2024年10月に公告された「車両のアクティブ防護システム搭載に関する設計検討」は、10式戦車のメーカーである三菱重工業が2億円で落札しています。
防衛装備庁が2025年12月に行った入札では、概念実証を行うアクティブ防護システムがドイツ・ラインメタルの「ストライクシールド」またはその同等以上の製品と明記されていますので、三菱重工業はその搭載を前提に、設計変更を進めているものと思われます。
防衛装備品は導入から長期間使用されるものなのですから、その時々の国際情勢に対する世論への配慮だけで、導入の是非の判断はともかく、検討や検証の幅まで狭めてしまうのは、長期的な日本の安全保障にとってはプラスにならないと筆者は思います。
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