鉄道会社の路線では、切符を発売する際などに混乱するため、基本的に同名の駅を作らないのが原則です。ただ、いくつか例外的に同一の駅名が別々の場所に存在するパターンがあります。代表的な2つを見てみましょう。
遠く離れた関西と東北に同名の駅が併存するワケ
通常、鉄道会社の路線では、切符を発売する際などに混乱するため、同一の駅名を作らないのが原則です。
とはいえ、駅が所在する地名はどうしても重なることがあるため、鉄道会社では、離れた場所に同一の駅名をつけないよう、新しく作る駅に「新」をつけたり(例:大久保駅と新大久保駅、横浜駅と新横浜駅など)、東西南北をつけたり(例:赤羽駅と北赤羽駅など)、旧国名をつけたり(栃木県の小金井駅と東京都の武蔵小金井駅など)と工夫しています。
ところが、福島県福島市の東北本線と大阪市福島区の大阪環状線に「福島駅」、福島県郡山市の東北本線と奈良県大和郡山市の関西本線(大和路線)に「郡山駅」という同一駅名が、国鉄時代含めJRに移行した後も併存しているのです。なぜ例外的に、同一駅名のままなのでしょうか。
まずは福島駅の場合です。福島県の県庁所在地、福島市に所在する福島駅は1887(明治20)年12月15日、日本初の私鉄である日本鉄道の本線南区(上野~仙台)が、郡山から仙台へと延伸したことにより開業しました。
その後、日本鉄道は1906(明治39)年に施行された鉄道国有法による買収対象とされ、福島駅が所属する本線は国有鉄道の東北本線となり、戦後の日本国有鉄道(国鉄)発足、民営化を経てJR東日本の駅となりました。現在はJR東北本線・東北新幹線、奥羽本線(山形線・山形新幹線)のほか、福島交通飯坂線、阿武隈急行線が発着するターミナルとなっています。
一方、大阪市福島区にある福島駅は、大阪環状線で大阪駅の隣にあります。元々は1898(明治31)年4月5日、大阪市の北西を走る西成鉄道の駅として開業しました。西成鉄道も鉄道国有法による買収対象となり、国有化後は西成線、そして1961(昭和36)年に城東線などを合わせて大阪環状線を形成するようになりました。
新幹線をはじめとするJR線だけでなく、私鉄も発着する福島県の福島駅と比較すると、ホームはひとつだけと少々こじんまりとした高架駅です。
では、なぜ2つの「福島駅」が併存したのでしょうか。そのきっかけは、前出の鉄道国有法です。日本鉄道は1906年11月、西成鉄道は同年12月に買収完了とほぼ同時期であるため、どちらを改名するか意見が対立したことも想像されます。ただ、東北本線と奥羽本線が分岐する交通の要衝である福島県の福島駅に対し、大阪市の福島駅は遠く離れた小規模な駅であり、この2つを利用者が混同することはないと考えられたようです。
とはいえ、乗車券を発売する際に国鉄内で混同する恐れがあります。そこで福島県の福島駅には所属する東北本線を示す「北」をつけ「(北)福島」、大阪市の福島駅には所属する大阪環状線を示す「環」をつけ「(環)福島」と、それぞれ乗車券に記載することで区別しています。
東大寺の古文書まで登場した「郡山駅」改名騒動
福島県で最も人口の多い郡山市の中心駅となっているのが、東北本線・東北新幹線の郡山駅です。開業は1887(明治31)年7月16日、日本鉄道の本線南区が黒磯から延伸した際の終点として設置されました。鉄道国有法により国有化された経緯は、東北本線の福島駅と同様です。
一方、関西本線(大和路線)の郡山駅は、金魚の産地として全国的に有名な奈良県大和郡山市にあります。開業は1890(明治23)年12月27日で、当初は大阪鉄道(初代)の駅でした。ただ、大阪鉄道は1900(明治33)年に関西鉄道に吸収合併され、その後鉄道国有法に基づいて1907(明治40)年に国有化されています。
駅は大和郡山市の中心部からやや離れており、駅前は静かな雰囲気です。市役所や郡山城址、商店街へは約1km離れた近鉄郡山駅の方が近く、利用客も近鉄の方が倍以上多くなっています。
福島県と奈良県の郡山駅では、福島県の方に運ばれる貨物や荷物が誤って奈良県の方に到着してしまうということが相次いだといいます。そこで国有鉄道を所管する鉄道院では、取扱量の大きな福島県の郡山駅を優先し、奈良県の郡山駅を改称しようとしたとのこと。
ところが、奈良県側の住民から「こちらの方が地名としては古い」として、東大寺に伝わる古文書を根拠に改称反対の陳情があり、改称が見送られたといわれています。
ちなみにその古文書とは、平安時代末期に東大寺と薬師寺がそれぞれ所有する荘園の境界争いが発生した際、1162(応保2)年に国から出された裁決の文書(官宣旨案)です。この中に登場する「郡山」という地名が、現存する資料のうち奈良県の郡山を示す最も古い例なのだとか。
改称が見送られ、並び立つことになった福島県の郡山駅と奈良県の郡山駅ですが、混乱するという問題はそのままです。そこで、福島県の方は所属する東北本線の「北」をとって「(北)郡山」、奈良県の方は所属する関西本線の「関」をとって「(関)郡山」と区別しています。
「福島~福島」の乗車券は買えず「郡山~郡山」は発券可能なワケ
名称が同じ駅が2つあるのならば、その駅同士を発着する乗車券を買ってみたくなります。そのような場合、乗車券にはどう表示されるのでしょうか。
結論から言うと、福島県と大阪市を結ぶ「福島~福島」の乗車券は買うことができません。これには国鉄からJRに継承された「運賃計算の特例」が影響しています。
東京や大阪、横浜といった特定の都区市内にある駅を発着する場合、その地域の中心となる駅(東京ならば東京駅、大阪ならば大阪駅)から201km以上離れた駅との間では、実際の乗車駅に関わらず地域の中心駅を基準に運賃が計算されます。乗車券には「東京都区内」や「大阪市内」と記されます。
福島県の福島駅と大阪市の福島駅は最短距離でも750kmほど離れているので、当然この特例が適用されます。このため、乗車券は「(北)福島~大阪市内」という表記になってしまうのです。
これに対し、福島県と奈良県の郡山駅同士を発着する乗車券は購入することが可能です。乗車券には「(北)郡山~(関)郡山」と記され、なんだか不思議な印象を受けます。
ちなみに、JR発足後に誕生してしまった「ダブり駅」も存在します。しかも一度は駅名が重複しないよう「新」を付けたのにも関わらず、です。
それは北海道の根室本線と、静岡県の東海道新幹線にある「新富士駅」です。開業したのは北海道の方が先。根室本線から富士製紙の工場へ向かう専用線が分岐する駅だったので、富士製紙にちなんで「富士」、この時すでに静岡県に東海道本線の富士駅が存在していたので「新」をつけ、1923(大正12)年12月25日に「新富士駅」が開業しました。
一方、東海道新幹線の新富士駅が開業したのは、JR発足後の1988(昭和63)年3月13日です。ほかの路線との接続がない、新幹線単独駅として誕生しました。駅名が決定したのも1987年10月16日で、JRが発足してからになっています。地元からの請願により富士市内にできたという経緯からすると、駅名が重複するけれど、やはり「新富士」以外は考えられなかったのかもしれません。
こちらのケースでは、北海道の方は根室本線の「根」をとって「(根)新富士」、静岡県の方は東海道新幹線の「東」をとって「(東)新富士」と乗車券上は表記されます。どちらも運賃計算の特例が適用される大都市の駅ではないので、双方を発着する「(根)新富士~(東)新富士」という乗車券を購入することができます。
かなりのレアケースではありますが、JR各社の路線には、ほかにも重複駅名がいくつか存在します。なぜ重複がそのままになったのか、逆に重複を避けるため、どのような駅名が採用されたのか、経緯をいろいろ想像するのも鉄道の楽しみ方といえるでしょう。
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