1988年に登場したホンダの原付スクーター「ディオ」は、実用性とスポーティな走りで大ヒットしました。数多くの派生モデルを生んだディオシリーズの歴史を振り返ります。
使いやすく乗りやすく、スポーティな乗り味もあった初代Dio
ヤマハ・パッソル(1977年)が火付け役となり、1980年代前半は、各社から実に多くの原付スクーターが登場しました。ホンダはタクト(1980年)をヒットさせますが、各社とも続々とパワーアップさせた原付スクーターを登場させ、やがて姿を消す格好になります。
1980年代後半になると、マイナー車や不人気車が続々と姿を消していく中、ホンダが「これがトドメじゃ!」とばかりにリリースさせたのが1988年の「Dio(ディオ)」です。
ディオはまさしく質実剛健なスクーターでした。
燃料タンクをフロアステップに配置することで、まず24Lもの収納力のあるセンタートランクをシート下に設置し、ヘルメットだけでなく他の収納にも使える仕様でした。十分な実用性に加え、シート高700mmという足つき性も実現。デザインもそれまでのスクーターより何歩も抜きん出た印象のシャープなもので、多くの若者が魅了されました。
加えて、ディオは機構も優れていて、新設計の空冷2サイクルエンジンを搭載。トルクフルでありながら高速域でもパワーを発揮し、最高出力は6.4PS/6500rpmを実現しました。足回りもややワイドなタイヤを装備し、スポーティな乗り味も楽しめるという、まさに「全方位ヨシ」な1台だったというわけです。
結果的に、バイク好きやヤンキーの若者だけでなく、真面目くんや主婦層までを魅了し大ヒットに至りました。
以降、ディオは派生モデルを続々とリリースし、もはや「どれがどれだっけ」状態になるほどですが、原付モデルは大きく分けて5代に分けることができます。
初代~3代目までが2スト、4~5代目が4スト
まずは1988~1990年までの初代。特別仕様車のディオ SP(1989年)、前輪をディスクブレーキにしたディオSR(1990年)などがありました。
そして1991~1999年までの2代目は「Super Dio」と呼ばれるモデルで、多彩なニーズに応えるべく、歴代ディオシリーズの中でも最も派生車が多くありました。
さらに1994~2002年までの3代目は「Live Dio」と呼ばれるモデルで、2ストロークエンジンのディオはここで生産が終わります。
4ストロークエンジンを搭載し生まれ変わったのが2001~2007年の4代目。「Smart Dio」と呼ばれるモデルで電子式燃料噴射装置(PGM-FI)を搭載した新時代仕様のディオでした。
さらに2007~2016年までの5代目は自動車排出ガス規制に対応させるなどの更なるマイナーチェンジがあったものの、本モデルを持って2016年に生産終了となりました。
「スケスケディオ」を知っているか!?
特に派生モデルが多い2代目には、走行性能を高めたディオZX(1992年)、遊び心満載のディオXR BAJA(1994年)、はたまた女性層に歩み寄ったディオCesta(1995年)、ディオFit(1997年)などがありました。
また、3代目では、前代未聞のスケルトン仕様、ライブディオZX(2000年)もリリース。パソコンのiMacのスケルトン仕様が大ヒットし、周辺機器もこぞってスケルトン仕様の製品が出ていましたが、パソコンと全然関係ないスクーターをもスケルトンにするあたりは、ホンダのシャレだったことでしょう。
しかし、4ストロークエンジンに変更された4代目、5代目は原付市場そのものが縮小傾向だったこともあって、正直控えめでした。
結果的に原付ディオは生産終了になるわけですが、入れ替わるように2011年には原付二種モデルとしてディオ110が登場。今日まで生産が続くモデルで、この110ccモデルも含めて「ディオシリーズ」とするなら、優に36年以上も続くロングヒットになったというわけです。
結果まだまだ続く「原付ディオ」
冒頭で触れた1980年代前半~中頃にかけての原付スクーターブームにおいて、ホンダには、他社を著しく抜きん出るモデルがありませんでした。また、この時代は各社とも、既存エンジンを流用しながらインパクトあるモデルを多くリリースしていていたものの、「本当に優れた原付スクーター」はごく限られていたように思います。
こんな混沌とした原付市場の中で、いよいよホンダが本気を出しゼロスタートで開発したのが、まさしくディオでした。
そして2025年11月以降、新たな排ガス規制の適用に伴い、原付一種そのものの生産が終了します。その代替に、125ccまでの原付二種の出力を抑えて原付免許で乗れるようにする「新基準原付」として11月20日に「ディオ110 Lite」が発売されます。ホンダが用意する新基準原付4車種のうち、これが唯一のスクーターモデルです。
スクーター市場を長らく支え、50cc原付の終焉を見届け、さらに次世代へつなぐディオシリーズは、もっと評価されてよいように思います。
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