陸上部隊が「船乗り」に!?→「海自のやり方、全然ちげえ…」どう乗り越えた? 「自衛隊海上輸送群」発足まで

自衛隊による新たな共同組織「自衛隊海上輸送群」が発足。文化や風習の違うなか船を操船しなければいけない陸自と海自はどうやって歩み寄りを図ったのでしょうか。

陸上自衛隊が船を動かす!?

 2025年3月、陸・海・空の3自衛隊による新たな共同組織「自衛隊海上輸送群」が発足しました。

 水陸両用作戦の要である水陸機動団を迅速に展開させるため、海上輸送力を強化するのが目的です。新たに就役した輸送艦「ようこう」と「にほんばれ」は、その象徴となりました。

 ところが、これらの艦を実際に運用するのは海上自衛隊ではなく、陸上自衛隊の隊員たちです。陸のプロである彼らにとって、「海」はまったくの新天地でした。

 旧日本軍時代、海上輸送は様々な事情により陸軍の管轄でした。広島・宇品に拠点を構え、陸軍独自の船乗り教育体制まで整えていたほどです。しかし、戦後に自衛隊が発足してからは、船の運用や航海技術は一貫して海上自衛隊の担当となり、陸上自衛隊には船に関するノウハウがほとんど蓄積されていませんでした。

「船酔いがきつい」「潮の流れがわからない」――そんな声も少なくなかったといいます。

 そのため、輸送艦勤務を予定する陸自隊員たちは、まず海上自衛隊の艦艇に乗り込み、実際に海自の隊員と生活を共にして学ぶことになりました。航海技術、艦内での任務分担、天候判断、整備方法など、すべてを一から習得していったのです。やがて彼らは、陸の兵士から立派な「船乗り」へと成長していきました。

 訓練の中で陸自隊員たちが驚いたのは、操船技術だけではありません。陸と海では、文化や習慣までもが異なっていたのです。

敬礼ひとつでも動作が違った!

 筆者が実際に自衛官に聞いた話によると、たとえば敬礼ひとつ取っても違いがあったといいます。陸自と空自では肘を90度に曲げて敬礼するよう指導されますが、海自では45度に曲げます。これは狭い艦内でも動きやすいよう工夫された、旧日本海軍時代からの伝統です。

 また、信号ラッパも異なります。陸自と空自が「九〇式喇叭(らっぱ)」を使うのに対し、海自はひと回り大きな「二環巻喇叭」を使用します。さらに海自独自の「サイドパイプ(笛)」という通信手段もあり、陸自隊員たちはこれにも興味を示しました。

 数字の呼び方や用語にも違いがあります。陸自が「2」を「に」と読むのに対し、海自では「ふた」と呼びます。陸自でいう「予行演習」は、海自では「立付(たてつけ)」と呼ばれます。「ひとふたふたまる(12時20分)、立付開始!」という号令に、陸自隊員たちは最初こそ戸惑ったそうです。

 もちろん、苦労したのは陸自だけではありません。指導する海自の側にも課題がありました。普段は当たり前のように通じる言葉が伝わらなかったり、海の常識がまったく通用しない相手に一から教える難しさもあったといいます。「同じ船で寝起きを共にしても、最初はまるで外国軍と訓練しているようだった」と笑う海自隊員もいました。

 それでも、互いにプロの自衛官同士です。海外の軍隊との共同訓練なども経験してきた彼らは、少しずつ信頼を築き、絆を深めていきました。

 発足当日、輸送群の甲板には陸・海の区別なく並ぶ隊員たちの姿がありました。互いの文化を理解し、力を合わせ、新たな任務に挑む彼らの姿は、まさに統合自衛隊の新たな象徴でした。

「陸か海かじゃない。私たちは同じ『自衛官』なんだ」。陸の兵士が海に出て、初めて見つけた答えなのかもしれません。

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