
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏。元プロ野球選手との会話から、プロとアマチュアの間で“逆転現象”が起きていると感じたという。
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故・荒川博先生から、兄弟子(?)の王貞治さんとのご縁をいただき、また王さんから数多くの野球関係者と交流させていただいています。ゴルフと野球、競技は違いますが、勉強になることもたくさんあります。
そんな中で、ある元プロ野球選手から興味深い話を聞きました。「実は高校球児の方が、プロ野球選手より重いバットを使っているケースも多いんですよ」。厳密にいえばアマチュアが重いバットを使っているのではなく、年々、プロの使用するバットが軽量化する傾向にある、というのです。かつてプロのバットは900g台が一般的で、世界の盗塁王の福本豊さんや3度のホームラン王に輝いた門田博光さんなど、1kgを超える超重量バットを振っていた名選手もいたようです。
しかし近年は、800g台の軽量バットを使う選手が多くなった、というのです。一方、高校球児の使う金属バットは重量が「900g以上」という規定があり、その結果、プロとアマのバット重量の逆転現象が起きた、というわけです。
さて、これを聞いてボクはゴルフ界でも同じことが起きているな、と感じました。というのもゴルフクラブも同じように軽量化が一気に進んでいます。パーシモンからメタルヘッドに変わり、ドライバーのヘッド重量は飛躍的に軽くなりました。ただ、この20年程、ヘッド重量は約200gで、それほど変わってはいないのですが、飛躍的にシャフトが軽くなりました。かつて男子プロは90g前後のシャフトを使っていたものですが、最近では男子プロでも60~70g台。女子プロの多くは40~50g台(一部60g台)ですが、50g台を使っている男子プロも見受けられるようになりました。
バットやクラブなど、道具が軽くなれば扱いやすくなります。野球でいえばバットコントロールがしやすくなるメリットが考えられます。しかし一方で、軽いバットでは豪速球を弾き返せない、ゴルフでは芯を外したら当たり負けするという意見もあるでしょう。一見、なるほどと思います。確かに道具の重さが2倍になれば、運動エネルギーは2倍になります。重い金づちの方が軽い金づちよりも釘を深く打ち込めるのはそうした理由です。ところが、これはある数学者からの受け売りですが、スピードが2倍になれば運動エネルギーは2倍の二乗、4倍になるのだそうです。つまり強いボールを打つ、ボールを遠くに飛ばすのは、パワーではなくスピードが重要なのです。
それにしてもアマチュアの方は、重いクラブやロフトの立ったクラブを使いたがります。同じようにシャフトも重く、ヘッドスピードにふさわしくないXやXXなど、硬いシャフトを自慢する人もいます。アマチュアの方が難しい、使いこなせないクラブを使いたがる傾向にあるのです。
ハードスペックの弊害は、数え上げたら切りがありません。あらゆるミスの原因である力みは、突き詰めれば上手く当たらないことから起きています。使いこなせないハードスペックだからです。特に大きな弊害が、ボクはトップからの切り返しにあると感じています。切り返しは車の運転でいえばギアチェンジに当たるのですが、ここでアクセルペダルを一気に踏んで出力してしまうアマチュアの多いこと、多いこと。こうなるとシャフトのしなりもヘッドの走りも、時にヘッドのどこに当たったかも理解できません。
切り返しではギアを1速に入れてダウン以降に2速、3速へとシフトチェンジするのが理想です。スイングに合ったスペックのクラブを使えれば、切り返しでシャフトが一瞬しなる動きを作り出せます。ダウンスイング以降でシャフトがしなり戻り、ヘッドを走らせられるのです。一度軟らかいレディースクラブを打ってみれば、シャフトのしなり戻りを感じることができるはずです。
さて、ここまで読んで何か思い当たる人は、一度、専門家にフィッティングしてもらうか、あるいは勇気を出してレディースクラブを試してみるのもアリですよ。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』871号より抜粋し、加筆・修正しています
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