
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏。「頭を動かすな」というレッスンに対して伝えたいことがあるという。
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ゴルフのレッスンの定番のひとつに「頭を動かすな」があります。これについて「半分は正解、半分は間違い」というのがボクの見解です。曖昧でいい加減な意見に聞こえるかもしれません。しかし、スイング中に頭はある程度は動くものですし、しかしわざわざ自分から動かすものでもないからです。
ただ見落としてならないのは、「頭を動かすな」といった命令形のレッスンが、スイングの動きをぎこちなく、不自然なものにしているケースが少なくないという事実でしょう。
その上で最近、ボクがプロたちにいうのが、「軸の上に首と頭をしっかり乗せなさい」というものです。アドレスからフィニッシュまで、この意識を持つことで、スイングの動きが自然になり、再現性の高い安定したものになると確信しています。
総じて韓国人選手のスイングが美しいとされるのは、この軸の上に“首と頭がしっかりと乗っている”からです。日本ツアーで6勝を挙げたキム・ハヌルプロ。21年限りで引退しましたが、現役時代、頭の上にリンゴを乗せるイメージで打ち、さらに昔はリンゴを頭の上に乗せて素振りをしていたと話していた姿を思い出します。
これは軸の上に、しっかりと首と頭が乗っているからなせる業。そして、リンゴが頭の上に乗っているためには、当然、ブレたり傾くことのない太い軸が求められるし、安定した下半身、足裏で地面をつかむ(5本の指で地面を噛む)立ち方……など“基本のき”が、自然と身に付くようにもなっています。
そこでボクたちチームでは、リンゴこそ使いませんが、ヘッドカバーや折り畳んだタオルを頭に乗せて振るドリルをしています。調子を落としたり、疲れていたりする選手には特に効果的です。なぜなら、そうした状況では上半身にリキミが生じ、なんとか調子を取り戻したいと思って上体がブレがちだからです。これが軸ブレにつながり、軸の上に首と頭が乗らない、という状況を作り出してしまうのです。
ただし、このドリルをやるときに注意したいのは次の一点。それは頭の上に乗せたヘッドカバーやタオルを“落とさない”ではなく、“落とさない意識”で振ることです。落とさないという否定語は体にムダな力みを生み、手打ちの原因にもなりかねません。落ちても構いません。しかし、落とさない意識で上体を静かに使って振ることが重要なのです。
クラブの進化は、スイングにも大きな影響を与えています。クラブにエネルギーが少なかった時代に比べ、現代ゴルフでは、たとえばヒールアップやニーアクションなどは、ムダな動きとして省かれる方向にあります。ザックリいえば体重移動よりも回転重視のスイングに変わりつつあるわけです。となるとなおさら、ヘッドカバーやタオルを落とさない意識が大切となります。
ちなみにこのドリルをすることで、たとえば(上田)桃子の場合、トップで頭が右に動く距離が小さくなりました。トップで右足にしっかりと体重が乗るのは、アドレスからボール1個分頭が右に動いた辺り。そのくらいの動きに収まってきました。
このようにスイングで頭は動きます。軸の上に首と頭が乗る意識を持てば、必要最小限の自然な動きが身に付くと考えてください。ヘッドカバーを頭に乗せるとそれを意識しやすいのです。実際のラウンドでは、目を瞑って素振りを繰り返すのも効果的。自然と軸を意識しやすいでしょう。もちろん、このときも頭の上にはリンゴが乗っているとイメージしてください。それを落とさない意識で連続素振りをするだけでも、凡ミスが防げることは間違いありません。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』861号より抜粋し、加筆・修正しています
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