
台湾の交通事故死者数は単純計算で「日本の5倍」と高い水準です。このため、交通ルールも年々厳しさを増し、驚くべきレベルに達しています。日本の感覚で旅行者がレンタカーなどを運転すると、とんでもないことになりかねません。
交通事故死者数の約63%がバイク事故
コロナ禍で徹底した感染防止策をいち早く実施し、「世界の優等生」として称賛を浴びるなどした台湾。そんな台湾にも唯一、なかなか減少しない問題があります。それが交通事故です。
台湾の交通部道路交通安全督導委員会(道安会)の統計では、2022年の交通事故発生後30日以内の死亡者数は3085人。前年に比べ123人(4.2%)増で、過去10年間で最も多い数字になりました。
ちなみに、台湾の5倍の人口をもつ日本における同年の交通事故死亡者数は3541人でした(厚生労働省・人口動態統計より)。日本と台湾の死亡者数がそう変わらない数字ですので、台湾の交通事故死者数は「日本の約5倍」です。
なかでも、交通事故による死者数の約63%を占めるのがバイク事故です。台湾に行ったことがある人ならご存知の通り、あれだけのバイク過密状態では、交通事故を誘発する危険性が常にあると想像できるのではないでしょうか。
もちろん、台湾政府もこの問題を見過ごしているわけではありません。これだけの交通事故の多さから年々、交通ルールの厳罰化が進んでいます。
タバコは「絶対悪」 運転中のタバコは「超厳しい」!
象徴的なのが、近年設定された「運転中のタバコ禁止」。喫煙はもちろん、「タバコの箱を持っただけ」でも違反とみなされる場合があり、罰金は600元(日本円で約2800円)。愛煙家にとっては、かなり厳しいルールです。
また、路上喫煙も原則禁止となっていて、違反者には1万元(日本円で約4万6000円)が課されることがあります。
余談ですが、実は筆者、こうしたタバコの罰則を知らず、台湾南部の某駅前でタバコを吸っていたところ、警察官数名に囲まれたことがあります。身分証明書(パスポート)の提示を求められ、日本の住所を書かされ、動画を撮られました。「外国人だ」ということで、この始末書のみで許しを得ましたが、台湾ではルールが制定されると、これだけ徹底した実施がなされるというわけです。
スピードオーバー? ヤバいって……
「動画」と言えば、ハイテク先進国・台湾では、道路上のあちこちにいわゆるオービスや防犯カメラが設置されているのも特徴です。
オービスは、信号ごとにあると言えるほど無数に設置されているほか、設置のない場所でも抜き打ちでネズミ取りのパトカーや、スピードガンを持った警察官が路上にいることもあります。
ただし、日本のネズミ取りのように大きな「とまれ」の旗で対象車を停めさせるような、古典的な手法ではありません。対象者および運転者には後日、違反切符と罰金の支払い書が届く仕組みです。
ちなみに台湾では、法定速度の10キロオーバーで取り締まりの対象となります。これを知らぬまま、日本人旅行者が台湾のレンタカーなどを使い日本の感覚で運転していると、続々と違反をしてしまう……ということになります。
CNNが報じた「台湾の交通マナーの悪さ」
また、2023年以降、特に厳罰化が進んだものが「横断歩道での歩行者優先」です。
かつての台湾では、歩行者用の横断歩道の信号が青でも、歩行者に道を譲らぬバイクやクルマが無数にいて、大の大人どうしでも、手を繋いで横断歩道を渡る人もいたほどでした。
しかし、アメリカのCNNが「台湾は交通マナーがめちゃくちゃ悪いので、とにかく注意して旅行すべし」と報道したことで、台湾で「自国の恥」として大いに話題となりました。
これをきっかけに、「横断歩道での歩行者優先」を違反した運転者への罰金も大幅にアップ。一般歩行者の優先を守らなかった運転者は3600元(約1万6560円)、白い杖をついた人・盲導犬を連れた人の優先を守らなかった運転者には7200元(約万33120円)という罰金が課せられるようになりました。
警察官がいなくても台湾人が交通ルールを守る理由
筆者は過去18年間、台湾渡航時のほぼ全てを現地のレンタカーを借り、自走で移動しています。この「横断歩道での歩行者優先」が近年高まったところを見て、正直驚きました。警察官が立っていない交差点でも皆きちんと止まるようになったからです。
「さすが。警察官がいなくてもルールを守る台湾人は、やっぱり民度は違うね!」と台湾人の友人に話しましたが、かえってきたのは意外な返答でした。
「違うよ。警察官が立っていなくても、みんながルールを守るのは、交差点のカメラで監視されているから。スピード違反同様、違反すればカメラで写真や動画を撮られ、後日違反切符と罰金の支払い書が届くんだよ」
いずれにしても、こういった合理的かつ徹底した取り締まりの効果で「台湾が抱える唯一の汚点」、交通マナーの悪さが今後も改善されていくと良いなと思います。