米軍の「おじいちゃん爆撃機」に復権の兆し 東京―北京ひとっ飛びな「ビッグ核ミサイル」←これがキモ

米空軍の大型爆撃機B-52「ストラトフォートレス」は2025年現在、核兵器の運用が可能なのは現役の約半数にとどまります。しかし全機に核ミサイル運用能力を付与しようと考えているのだとか。時代に逆行しているとは言い切れないその動きとは。

射程2400kmある空中発射巡航ミサイル

 アメリカ空軍が運用する戦略爆撃機B-52「ストラトフォートレス」は1952年に初飛行した年季の入った軍用機です。運用開始は1955年で、それからすでに70年が経過していますが、この老練な爆撃機が再び世界の戦略均衡の最前線に立とうとしています。

 1950年代初頭、B-52は当時のソビエト連邦との核抑止力競争の中で生まれました。その設計思想は明快で、大陸間を飛行し敵本土の奥深くに核爆弾を投下可能な長距離爆撃機として開発されました。

 以来、幾多の近代化改修を受けながら、B-52は長年にわたって現役で使われ続けています。2025年現在の現役機数は76機。全機1960年代に製造された機体でありながら、2020年代に至ってなお、最も信頼される空中プラットフォームの1つとして世界中を飛び回っています。

 しかしながら、この「老兵」76機すべてが等しく戦略任務に従事しているわけではありません。B-52の核戦力中核を担うのが、射程2400kmのAGM-86ALCM(空中発射巡航ミサイル)です。ちなみに、東京と北京の距離が約2100kmなので、単純計算ではそれだけの射程があるミサイルだと言えるでしょう。

 ALCMは敵防空網の外から核攻撃を加えることが可能な戦略核兵器ですが、米露両国は相互の核戦力を制限する新戦略兵器削減条約(新START)を締結しており、これを受けて戦略爆撃機の総数が厳格に制限されています。このことからB-52の約半数はAGM-86の発射能力が意図的に削除されています。

 76機を保有するうち30機については核任務から外された、いわば「戦術爆撃機」であり、中東やアフガニスタンといった紛争地帯において、JDAM(精密誘導爆弾)などの通常兵器を用いた地上攻撃任務に専念してきました。言うなれば、アメリカ空軍にとってB-52は、「空飛ぶ兵器廠」として機能していたと言えるでしょう。

 ですが、世界の構造は再び劇的に変化しつつあります。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は冷戦後秩序の根幹を揺るがせ、2026年に失効を迎える新START条約の延長が事実上困難となってしまいました。すなわち戦略核兵器の制限という枠組み自体が風前の灯火なのです。

エンジン換装しながら生き長らえるB-52

 この現実を前に、アメリカは着実に戦略オプションの見直しを進めています。なかでも注目すべきが、B-52に再び核搭載能力を全面的に復活させるという計画です。核兵器(AGM-86)搭載能力を喪失したB-52を再び搭載可能に戻し、戦略爆撃機としての任務に回帰させようという動きが加速しています。

 またアメリカ空軍ではAGM-86の後継となる新型の戦略核兵器AGM-181長距離スタンドオフ兵器(LRSO)の開発を進めています。これは、いっそう確実な航空兵器による核攻撃手段を実現しようと動いていると言えるでしょう。このような兵器を、全てのB-52に搭載可能とするのは、単なる近代化にとどまらず、アメリカの核抑止戦略の根本的再編を意味します。

 2025年現在、数の面でより比率の大きい大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦搭載弾道ミサイル(SLBM)に対し、空中発射型の核戦力が再びその中心に躍り出る可能性を示唆していると言えるでしょう。

 加えて、アメリカ空軍では新型爆撃機B-21「レイダー」を開発中ですが、この機体は現在のところB-1BとB-2を置き換える見込みであり、B-52はB-21と共に空を飛ぶ「戦略の二枚看板」として生き残る可能性が高くなっています。B-52はF130ターボファンエンジンへの換装を含む大規模近代化改修を受けており、寿命は少なくとも2050年代まで延伸される見通しです。

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」と言ったのは、かつて日本を占領していたGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のトップであったマッカーサー将軍ですが、B-52は消え去るどころか、ますます存在感を増す状況です。

 かつての冷戦の象徴は、来たるべき新冷戦の主役になりつつあると言えるのかもしれません。

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