「謎のスキ間」F-35戦闘機で消え去ったワケ その影響とは そもそも何のために必要だった?

2025年現在、航空自衛隊が保有するF-2やF-15、F-35の3機種の戦闘機を見比べると、F-35だけ空気取り入れ口が異なることに気が付きます。同機だけ空気取り入れ口が胴体と密着しているのはなぜでしょうか。

飛行速度が速くなったことで悪影響が出始めた

 ジェット戦闘機を正面から見てみると、エンジンの空気取り入れ口が、胴体と離れて付いていることに気が付きます。なぜ、わざわざ隙間を作っているのでしょうか。ヒントは空気の「粘り気」にありました。

 この空気取り入れ口と胴体とのあいだに設けられた隙間を、英語ではダイバータ(境界層隔壁)と呼んでいます。直訳すると「そらすもの」となりますが、何をそらしているかというと、胴体の表面近くを流れる空気の層です。

 高速で飛ぶジェット戦闘機の場合、機体表面近くを流れる空気は表面との摩擦抵抗により、周りの空気に較べて流速が遅くなってしまいます。専門用語では、この粘りつくように流速が遅くなった空気の層を、機体表面と周りの空気との境界にあることから「境界層」と呼んでいます。

 周りの空気と境界層は流速が異なるため、一緒にエンジンが吸い込んでしまうと必要な空気の量が確保できずに燃焼効率が悪くなり、思ったように出力を出すことが難しくなります。そこで胴体と空気取り入れ口とのあいだに隙間を設け、有害な境界層を「そらして」吸い込まないようにしているという訳です。

 初期のジェット戦闘機には、このような隙間が設けられていませんでした。なぜなら、まだ飛行速度が遅かったのと、ジェットエンジンと境界層との関係がよくわかっていなかったからです。

 ところが飛行速度が音速に近づくにつれ、機体表面に粘りつくように存在する境界層と周囲の空気との流速差が大きくなり、前出のデメリットも解明されるようになりました。このため、胴体から少し離した位置に空気取り入れ口を設け、境界層を吸い込まないよう対策するようになったのです。

三角形の膨らみがダイバータの代わり

 機種によっては、さらに空気取り入れ口直前に無数の小穴を設けた「スプリッターベーン」と呼ばれる板状の部品を設置し、境界層を切り分けて穴から吸い込み排除する例もあります。古くは「F-4ファントムII」、現用機ではF/A-18のA~D型いわゆる「レガシーホーネット」や、ユーロファイター「タイフーン」が代表的な存在です。

 アメリカの現用戦闘機を見てみると、F-22までは空気取り入れ口と胴体とのあいだに隙間を設ける設計手法が採用されていますが、同じステルス戦闘機であるF-35の場合、空気取り入れ口は胴体と隙間がありません。

 ただ、だからといって境界層対策をしていない訳ではなく、また別の手法が用いられているのです。

 F-35の空気取り入れ口直前をよく見ると、三角形の膨らみがあります。この膨らみによって境界層を「押しのける」ことで、エンジンが境界層を吸い込まないようにしているのです。このような手法を用いた空気取り入れ口のことを「ダイバータレス超音速インレット(Diverterless Supersonic Inlet:DSI)」といいます。

 ダイバータレス超音速インレットを量産機で初めて採用したのは、中国とパキスタンが共同開発したJF-17「サンダー」(中国名FC-1梟竜)でした。F-35では、この膨らみがレーダー波を反射しやすいエンジンのファン部分を隠すため、ステルス性向上の目的でも採用されています。

 境界層は高速で飛ぶジェットエンジンが吸い込むと有害ですが、同時に主翼においてはフラップなどの高揚力装置で制御し、活用されています。現代のジェット戦闘機は、境界層とうまく付き合いながら飛んでいるといえるでしょう。

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