
春の全国交通安全運動では「チャイルドシートの適切な使い方」が注意喚起されています。チャイルドシートを使用せずシートベルトが子どもの命を奪った事故も起きましたが、チャイルドシートも使いかたを誤れば大きなリスクになります。
シートベルトが“凶器”に 注目集まるチャイルドシート
春の全国交通安全運動が2025年4月6日から始まりました。15日までの運動重点項目のひとつに、今回は「チャイルドシートの適切な使い方」が含まれています。
チャイルドシートや、児童を想定したジュニアシートの重要性については、2024年8月に福岡県で発生した子どもの死亡事故を機に改めてクローズアップされています。路線バスと軽自動車の正面衝突事故で、チャイルドシートを使用せず軽自動車に乗っていた7歳と5歳の姉妹が、シートベルトによる腹部の圧迫で死亡しました。
適性な身長に満たない状態でシートベルトを使用すれば、シートベルトが凶器になりかねない――これを受けてJAF(日本自動車連盟)もチャイルドシート(ジュニアシート)の使用を推奨する身長の目安を140cmから150cmに引き上げるなどしています。
こうした身長の問題に限らず、「チャイルドシートは誤使用が多い。使用期間や後ろ向きでの使い方についても、誤った認識がされている」と警告するのは、公益財団法人「交通事故分析センター(ITARDA)」研究部の菱川豊裕研究員です。
菱川氏は2013年~2022年に発生した国内の交通事故データや海外研究を参考に、誤使用と誤認識についての成果を、昨年の研究発表会で公表しました。最も重視するのが「取付け時の誤使用」です。
後ろ向き取付けは「できるだけ長い期間」
チャイルドシートは、子どもの成長に合わせて3種類のパターンがあります。成長にあわせて変えていくのですが、一般的に乳児は進行方向後ろ向きにシートを取り付けます。
「1歳未満が乳児というイメージですが、“乳幼児”は年長の子どもや大人に比べると、大きく重い頭を支えているにも関わらず、頸の筋肉が弱いので、事故時に重傷を負うリスクを低減するには、できるだけ長い期間、後ろ向きのチャイルドシートに乗せることが重要です。アメリカでは、後ろ向きを2歳までとする州法を制定しているケースが多数あります」(菱川氏)
また、後ろ向きに取り付けても、起きる誤使用について、菱川氏は強く警告します。
「助手席へのチャイルドシート取付けは、全年齢で誤使用です。後ろ向きにチャイルドシートを取り付けた場合も、エアバッグの作動でチャイルドシートが後方に押し付けられたチャイルドシートと本来のシートの間に、子どもが押し付けられて、より大きなダメージを追う可能性があります」
助手席チャイルドシートはダメ!
菱川氏の研究によると、乳児用チャイルドシートの座席別損傷主部位で、頭部や頸部に影響があるとされた死亡重傷者の割合は、前席で66.7%、後席で約47.4%。前席のほうが圧倒的に頭部・頸部にダメージを与えることが多いという結果が出ています。
運転者一人だけで乳児を同乗させる場合、助手席に取り付けてあると、振り返らずに子どもの顔が見られる気もしますが、後席への取付けが安全です。
チャイルドシートを前向き取付けに切り替えて、チャイルドシートを卒業すると、こんどはジュニアシートで身体全体を持ち上げて、車体に装備されたシートベルトで身体を固定する段階です。
「6歳が過ぎても、身長が150cmぐらいになるまでは大人用シートベルトは身体にフィットしません。子どもが成長してからも、シートベルトが骨格に作用する体格になるまでは、ジュニアシートを使用してください」
ジュニアシートを外して着座し、大人用シートベルトを装着した場合、座高が足りずに肩ベルトが首にかかっていたり、腰骨で固定すべき腰ベルトがお腹の上を通っているような場合は、目安となる年齢に達してもいてもジュニアシートを使うべきだと菱川氏は話します。
適正にシートベルトやジュニアシートを装着していたとしても、助手席での使用はやはりNGです。乗車位置別の死亡重傷率は、助手席が運転席よりも高いと、菱川氏は全年齢の死傷者数分析で結論づけています。子どもの乗車について、次のような米国の目安を掲げます。
「米国運輸省道路交通安全局とメーカー、保険会社などによる安全キャンペーンでは、こんなメッセージがあります。『12歳以下の子どもは後部座席のほうが安全』」
ハーネスが緩んで「重傷」目立つ
チャイルドシートは、シートの取付け方法そのものの誤りも目立っていたといいますが、これは「新基準の取付け方法がISOFIX方式のみに変わったので、誤使用減少が期待できる」(菱川氏)とのこと。
ただ、子どもを座らせたあと、「ハーネスの締め付け」「ハーネスの高さ調節、ねじれ、よじれ」「背もたれの角度」などが不適切なケースの方が多いことも明らかになっています。
「2歳~5歳で適正使用時と誤使用時の損傷主部位(2013~2022年)を比較すると、適正使用では頸部、頭部、顔部の軽症が多い、ものの、誤使用では、頭部、顔部で軽症に加えて、重傷の割合もめだってきます。衝撃でハーネスの締め付けが緩み、前席シートに衝突する恐れがあるためです」(菱川研究員)
小さな子供のいる人は、チャイルドシートの説明書の再確認や、動画説明を利用した見直しが必要かもしれません。