
米空軍のF-22「ラプター」戦闘機は、高いステルス性を維持するためミサイルなどの兵装を機内に収容します。一応、翼下にミサイルを吊り下げることも可能ですが、この方法だと撃てません。一体どんなメリットがあるのでしょうか。
使われることがほぼないF-22の「激レア」兵装
F-22「ラプター」は、世界初の第5世代戦闘機として広く知られ、現在もその高い空戦能力によってアメリカ空軍の航空戦力の中核を担う存在です。「世界最強の戦闘機」とも呼ばれる同機の最大の特徴は、徹底したステルス性と高い機動性にあります。とくにステルス性に関しては、レーダー反射断面積(RCS)を極限まで抑えるため、F-22では兵装の全てを機内に格納するウェポンベイ(兵装庫)を採用しています。
ここにAIM-120「アムラーム」やAIM-9X「サイドワインダー」といった空対空ミサイルを収容することで、機体のレーダー反射を最小限に抑えつつ、高い戦闘力を維持しているのです。
しかしF-22には、一般にはあまり知られていない特異な兵装搭載機能が存在します。それが、主翼下部に備えられた2か所(左右合計4か所)の兵装搭載ステーションです。通常、F-22の設計思想からすれば、外部に兵装をむき出しで搭載するのはステルス性を損なうため避けたいところでしょう。実際に、実戦部隊に配備されているF-22がミサイルを外部搭載している姿は、知られている限り一度もないと思われます。
しかも、この搭載ステーションはミサイルを搭載することはできますが、ミサイルを発射することは、現状できません。
ミサイルを搭載できるのに発射が不可能という状況は、一見すると不可解に感じるでしょう。しかし、この仕様には、重要な戦略的背景があります。それは、F-22が単独で長距離展開したり、連続的な作戦行動を行ったりする可能性を考慮したからです。
湾岸戦争の教訓が発端か
主翼下の兵装搭載ステーションは、アメリカ本土から遠く離れた地に展開する際、追加のミサイルを携行するために用いられます。F-22は通常、ウェポンベイ内にAIM-120を最大6発、AIM-9Xを最大2発搭載できます。
しかし、熾烈な空中戦を繰り広げるうちに、すべてのミサイルを撃ち尽くしてしまう可能性があります。もし、この段階で補給が受けられなければ、F-22は戦闘能力を喪失し、戦線からの離脱を余儀なくされるでしょう。
そこで、主翼下の兵装搭載ステーションに予備のミサイルを搭載して遠方の飛行場へ展開し、戦闘ミッションを行う前に地上に降ろしておけば、本格的な輸送拠点が構築されるまで、数ソーティー(出撃回数)を、燃料を調達するだけで行うことが可能になります。すなわち、自ら運んできたミサイルで再武装し再出撃することが可能になるのです。
空輸可能なミサイルの数は、ウェポンベイと外部搭載を加算しAIM-120であれば最大14発にまで増えます。また兵装搭載ステーションには外部燃料タンクも搭載可能です。こちらは国外へ展開する機体に装備されている姿がよく目撃されています。
過去に目を向けると、1990年に起きたイラクによるクウェート侵攻の際、アメリカ空軍はF-15「イーグル」戦闘機を即時サウジアラビアへと派遣し、空中パトロールを行っています。F-22のミサイル外部搭載能力は、このような事態を見越して用意されているものであり、アメリカ空軍が全世界規模での展開を想定しているからこそ生まれたものと言えるでしょう。
将来的には外部搭載ミサイルにも射撃能力が与えられ、非ステルス状態での作戦投入も可能であると考えられます。特にドローンや巡航ミサイルなどに対処するための戦いにおいては、ステルス性よりもミサイル搭載数が何よりも重要です。
なお、現在開発中の大型長距離空対空ミサイルAIM-260「JATM」は、外部搭載兵装の有力候補となり得ますが、F-22のアップグレード計画には優先すべき項目が多いため、この改修が早期に実現する可能性は低いと考えられます。