「名前のルール、変えないで」欧州車の“シンプルすぎるモデル名”に生じた混乱 そもそもなぜ愛称ないの?

クルマの命名法を「変えます」「やっぱり元に戻します」――独アウディの方針転換に世界のユーザーが混乱しているようです。アルファベットや数字で表される輸入車の車名は、本来どのようなメリットがあるのでしょうか。

命名法を「変えます」「やっぱり元に戻します」 直後に出た新型はどっちなんだ!?

 2025年2月3日、ドイツのアウディがモデル名のネーミングルールの変更を発表。同社は2023年、長く使われていたルールを改変すると宣言し話題になりましたが、今回の発表でさらにルールを元に戻す、としました。その直後の2月17日、“新ルール”の第一弾車である新型A5シリーズが日本で発売され、ユーザーに少なからず混乱を与えているようです。

 アウディは、AやQといったアルファベットと、1から8までの数字を組み合わせたモデル名を使っています。このようなシンプルなモデル名は、日本車ユーザーには馴染みがなく、もともと分かりづらく映るかもしれません。どのようなメリットがあるのでしょうか。

 アウディの場合は、Aはセダンなどの低い床のモデル、QはSUVなどの高い床のモデルを示し、数字については、車格の大きさに従って大きな数字を使っていました。ところが2023年「電気自動車は偶数、エンジン車は奇数」とする新命名法を発表。これに基づく第一弾として打ち出されたのが、ベストセラーモデル「A4」を改めた新型「A5」です。欧州では2024年7月に発売されました。

 しかし、新ルールが適用されるのは結局、新型A5のみに留まることとなりました。

 元のルールに戻すという判断は、「お客様の要望と各国ディーラーからのフィードバック」によって決まったとか。新機軸を打ち出した本社に対して、世界各国のユーザーや販売店がNGを突き付けた格好です。やはり使い慣れた呼び方が良かったということでしょう。

なんで名前そんなにシンプルなの?

 アウディのようなアルファベットと数字を組み合わせた規則性のある命名法は、欧州メーカーに多く採用されている方法です。メルセデス・ベンツ、BMW、プジョーなどが筆頭で、日本ではマツダが採用しています。

 一方、トヨタなどの日系メーカーや、アメリカ系メーカーの多くは、1台ずつに個別の名称を与える方式、いわゆるペットネームを採用しています。この2の方法は、それぞれにメリットがあります。

 アルファベットと数字を組み合わせる規則性の命名法のメリットは、命名のルールさえ理解すれば、名前を聞くだけで、どんなクルマであるかを即座にイメージすることができます。

 たとえば、アウディの「A1スポーツバックTFSI」とあれば、低い床(A)の、ハッチバック5ドア(スポーツバック)で、ガソリン・エンジン(TFSI)を積んでいることを示します。

 メルセデス・ベンツならば、最初に車格と車型を示すアルファベットがあり、それにパワーを示す数字が続きます。「A」「C」「E」「S」などが車格で、アタマに「GL」とあればSUV、「CL」が4ドアクーペ、「EQ」なら電気自動車です。「GLA」ならば、車格がAのSUVとなるというわけです。

 BMWは基本的に3桁の数字でモデル名を示します。3桁のうち、最初の数字が車格で、後ろの2桁がエンジン排気量・出力を意味します。また、最初の数字の偶数はスポーティなモデル、奇数が通常モデルで、数字が大きいほどサイズが大きくなります。ベストセラー車のひとつ「320d」ならば、3シリーズで2000ccのディーゼル(d)エンジンを積んだモデルです。SUV系はX、ロードスター系はZ、電気自動車はiが使われています。

 マツダの場合は、セダンとハッチバックは1桁の数字のみで、数字が大きいほど車格が上がります。そしてSUV系にはCXに車格の数字を組み合わせたものが使われています。

実はカネがかかる“日本方式”

 面白いのは、アウディもメルセデス・ベンツもマツダも、すべてのモデルでグリルのイメージが統一されていることです。マツダの開発者は「個別のモデルではなく“マツダそのものを知ってほしい”からデザインを統一している」と説明していました。

 つまり、アルファベットと数字を使う命名法の場合、モデルごとではなく、ブランド全体をアピールするのに向いていると言えるでしょう。ブランドの価値を高めるのには、よい方法だと思います。

 それに対してペットネームは、個々の個性を強くアピールすることに向いています。雰囲気を変えてペットネームを差別化すれば、同じセグメントのモデルを2つ売ることができます。

 たとえばトヨタの「ハリアー」と「RAV4」。ほぼ同じサイズのSUVですが、「ハリアー」は洗練された街乗りクルマ、「RAV4」はアウトドアが似合うアグレッシブなクルマという住み分けができます。ペットネームを使うことで、個性豊かなクルマを売ることができるのです。

 一方で、それぞれデメリットもあります。

 ペットネームは個性を感じさせることができますが、その一方で、名前を聞くだけでは、そのクルマがどんなサイズで、どんなキャラクターで、どんな車型なのかがわかりません。お金と時間をかけて、しっかりとプロモーションを行う必要があるのです。これがデメリットとなります。

 アルファベットと数字の組み合わせの場合は、個々のモデルの個性を押し出しにくいのがデメリットになります。もしも同じ顔つきのデザインにしてしまうと、ラインナップの違いはサイズのみとなってしまい、それぞれの個性が強く感じられません。

 そして、今回のアウディの騒動のように、命名法のルールを崩すと、混乱が生まれてしまうのも課題です。ユーザーが命名のルールを理解しているから、名前だけで姿がイメージできるのに、命名法のルールが揺らぐとわからなくなります。これが大きなデメリットです。

 アルファベットと数字の規則性を使うのも、ペットネームを使うのも、どちらにもメリットとデメリットが存在します。どちらが勝ちというわけではありません。だからこそ、クルマ100年の歴史で、どちらも存続していると言えるでしょう。

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