「永掃」シンボルは富豪の象徴だった!?『なぜ多磨霊園には有名人のお墓が多いのか』

東郷平八郎と共に眠りたいという歴史事情的背景で人気が高まった多磨霊園は、その後、太平洋戦争で戦死した山本五十六、古賀峯一が名誉霊域に埋葬されたことも後押しされ、地方出身者で東京に移住した戦死者の家族のお墓が多数建立されることになっていきます。

 寺院もそうですが、墓地を購入するというのは、あくまでも土地を借りて墓石を建てることであり、土地を購入することではありません。東京都から土地を借り、毎年管理料を納め使わせていただいているが正しい解釈です。多磨霊園が現在の管理料制度にしたのは、1962年(昭和37年)からです。それ以前は、東京都に永代使用料という土地代を最初に納めれば永続的に使用ができました。1926年(大正15年)からお墓掃除を代行する掃除料制度というものができ、毎年支払いをすることで東京市が墓所を掃除しきれいにしてくれました。

1932年に掃除料準永代制となり、1939年からは掃除料永代制となって、掃除をするのも永年にしてもらうことができるようになりました。今でもその名残を、古い墓所で見ることができます。墓所入口に「永掃」とはめ込まれたシンボルです。ところが、掃除代も一気に納めることができるのは、それなりの富豪の象徴でもあり、一般庶民全員が活用できた制度ではありませんでした。

戦後、1948年に掃除料永代制を廃止。1953年(昭和28年)は掃除料制度も廃止し、管理料制度に切り替えました。掃除料を払う人と払わない人がいることと、多磨霊園の拡張に伴い墓所掃除の手が行き届かなくなった背景があります。そこで、通常、石材屋と茶屋は別々にお店を持ち運営しているのが当たり前の時代でしたが、多磨霊園では石材屋が茶屋も兼ねることにさせます。石材屋がお墓を建てるだけではなく、茶屋も兼ねてお花も売り、お墓掃除も代行して、墓参者のあらゆる面のサポートをする店となっていきます。

このように時代とともに変化していく過程で、多磨霊園内の墓所地は満杯になりました。空きがない状況になる中でも、多磨霊園にお墓を求める希望者がいます。茶屋も兼ねた石材屋には希望する声と同時に、お墓を別地へ改葬する人の相談や、管轄していたお墓が無縁墓地となってしまうことにも直面します。求める人と出る人の仲介役となるケースが増え、東京都への申請も石材屋が代行します。著名人の多くが多磨霊園に墓所地を得ることができたのも、一般人よりも支払い能力が高く、また石材屋の力もあったことが伺えます。

墓地が不要になって返還する際に、同時に別の者がその墓地に新たな使用申請をすれば、その者に使用許可になる「ひも付返還」と称された方法は、是が非でも多磨霊園に墓所が欲しいと希望する者にとって最良のやり方でした。同時にお金で得たい者も現れ、それを悪用する石材屋も現れてしまったのも事実です。希望者は石材屋に賄賂や金を積む。逆に空いた墓所地を高額で売買し出す石材屋も現れ、挙句には無縁墓地になっていない墓所地を勝手に売りさばく人も出てきました。これには東京都としても見過ごせません。1962年(昭和37年)多磨霊園の使用に関しては公募抽選制となり、受託制度は完全に停止となりました。

【筆者プロフィール】
小村大樹(おむら・だいじゅ)
掃苔家・多磨霊園著名人研究家
1976年生まれ。1997年、大学生の時に多磨霊園の横にある石材屋でバイトをしたことをきっかけに多磨霊園に眠る著名人の散策を始める。1998年、当時インターネットが出始めた頃より「歴史が眠る多磨霊園」のホームページを制作。2018年開設20周年を迎える。
足で一基一基お墓を調査し、毎週1,2名ずつ更新をすることを20年間休まず実施(現在も継続中)。お墓をきっかけに眠っている著名人の生き様や時代背景の歴史を学ぶことをコンセプトにしており、掲載している人物は3000名を超える。
サイトを通じて多くの著名人のご遺族とも親交。歴史学者や郷土史家、出版社らの協力も惜しまず提供。一橋大学名誉教授の加藤哲郎『飽食した悪魔の戦後 731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)では論文として考察される。『有名人の墓巡礼』(扶桑社ムック)では一部執筆を担当。中学社会科・高校地理歴史の免許を取得し、通信制高校で教壇にも立つ。
『歴史を学ぶのは、過去の事実を知ることだけではない。歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことだ』『私が著名人だと思った人物は全て著名人である』がモットー。

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◆歴史が眠る多磨霊園 http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/
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