
「歴史が眠る多磨霊園」のホームページは、1998年に開設し、現在に至るまでほぼ毎週欠かさず掲載をし続けています。私の「掃苔」(そうたい)をする喜びは3つあります。
1つ目は発見の喜び。多磨霊園の広さは128万237平方メートルで、東京ドーム27個分に相当する広さの場所に40万の御霊が眠ります。お墓を一基一基調査して、著名人のお墓を発見した時の感動は、まるで宝探しで宝を発見したような気持ちです。20年前はデジタルカメラも普及する前でしたので、24枚フィルムを何本も持参し、ある程度特定した後に写真を撮り現像。費用も時間もかかり、ピンボケしてしまっているのも多数。現在は向き合うお墓に対して枚数を気にすることなく撮影し情報を持ち帰ることができるようになったので便利になりました。
2つ目は調査したお墓に眠る人たちの生前の記録探しです。墓所内に建つ碑石や、墓誌に刻む簡略歴、勲章受章の情報は特定しやすいのですが、基本的には俗名、生没年月日、行年から探っていきます。20年前はインターネットが出始めたばかりで、検索をしても何も引っ掛かりませんので、もっぱら図書館が私の愛用場所でした。また古本屋で色々なカテゴリの人名辞典を購入。現在はインターネットである程度の事前情報を入手できるようになったので、人物史をまとめやすくなりました。
3つ目は公開した人物のご遺族様からご連絡を頂戴する喜びです。インターネットが主流となり、ご遺族の方々と直接やり取りできる環境となりました。親戚の集まりで先祖に有名人がいると知った若い世代は人物検索をします。すると「歴史が眠る多磨霊園」にヒットするケースが多く、サイトを通して先祖を知ることができたという喜びのメールなどをけっこう頂戴します。
私が「歴史が眠る多磨霊園」の運営コンセプトは、お墓をきっかけにしてその人物を知り、その時代背景を学ぶこととしています。歴史は現代のフィルターで見るのではなく、当時の世界観や背景を受け入れた上で、当時活躍した人がなぜそのような活動をしてきたのかを学ぶことが大事であるという思いで作成しています。歴史=「history」。ハイスペックな「story」=物語と勝手ながら解釈をし、歴史を通じて「なぜ」を考える思考力を養うことが大事であると思っています。だからこそ、現代の価値観を持ち込まないように客観的にまとめています。歴史に名を刻むような方々の多くは「人とズレててブレてない人」です。先人たちの過去から、我々がどう未来を創るかのヒントを得るのかワクワクします。
有難いことにご遺族様から否定的な意見をいただいたことがほとんどありません。むしろ好意的なお声をいただきます。また、ご遺族の方々から、人物の正式な呼び名やご指摘をいただきます。意外に人名辞典の誤りも多いと感じています。ご指摘をしていただける方々の多くは、ご子息など関わりが深かった人たちが多く、ご指摘に加え、人名辞典には載っていない逸話や、当人の本当の実話などを教えていただきます。それをご遺族様の情報提供として掲載します。それを読んだ、大学教授、歴史学者、郷土史家、出版社などの方々から連絡をいただきます。研究者からすると大発見事象のこともあり、依頼を受けてご遺族の方々を橋渡ししたケースも多数あります。インターネットだからこその連鎖に感謝しつつ、私がハブになることで、亡くなった方々を現代に蘇らせている気持ちを体感できていることが、私がこのような形で「掃苔」している最大の喜びです。
20年目の2018年より、「歴史が眠る多磨霊園スピンオフ」と称して「The NEWS」サイト内でコラムの執筆のお話をいただき、同じ霊園に眠る方々の生前の横のつながりをベースに、人物紹介や逸話などを書かせてもらいました。1年半の長期に渡り掲載していただき、2019年平成から令和に時代をまたぎ、計98作品225名を紹介できました。まだまだ紹介したい人物たちは多数いますが、ここでひとつ節目とさせていただきます。
『歴史を学ぶのは、過去の事実を知ることだけではない。歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことだ』
過去の人たちの礎(いしずえ)の上に我々がいます。過去の人たちを蘇らせることができるのは生きている我々しかできません。これからの未来のために、歴史からどうバックアップしてもらえるのかは、我々の解釈次第です。これがひとつのきっかけになればと思っております。
多磨霊園著名人研究家 小村大樹(おむら・だいじゅ)
【筆者プロフィール】
小村大樹(おむら・だいじゅ)
掃苔家・多磨霊園著名人研究家
1976年生まれ。1997年、大学生の時に多磨霊園の横にある石材屋でバイトをしたことをきっかけに多磨霊園に眠る著名人の散策を始める。1998年、当時インターネットが出始めた頃より「歴史が眠る多磨霊園」のホームページを制作。2018年開設20周年を迎える。
足で一基一基お墓を調査し、毎週1,2名ずつ更新をすることを20年間休まず実施(現在も継続中)。お墓をきっかけに眠っている著名人の生き様や時代背景の歴史を学ぶことをコンセプトにしており、掲載している人物は3000名を超える。
サイトを通じて多くの著名人のご遺族とも親交。歴史学者や郷土史家、出版社らの協力も惜しまず提供。一橋大学名誉教授の加藤哲郎『飽食した悪魔の戦後 731部隊と二木秀雄「政界ジープ」』(花伝社)では論文として考察される。『有名人の墓巡礼』(扶桑社ムック)では一部執筆を担当。中学社会科・高校地理歴史の免許を取得し、通信制高校で教壇にも立つ。
『歴史を学ぶのは、過去の事実を知ることだけではない。歴史を学ぶのは、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことだ』『私が著名人だと思った人物は全て著名人である』がモットー。