ドイツを『世界一』へと導いた赤と黄色の”聖地決戦”【CL決勝 同国対決の激闘史/ブンデス編】

 どんよりとした曇天の中、ウェンブリーに足を運ぶ。翌日に控えるチャンピオンズリーグ(CL)決勝のバイエルン対ドルトムントのアクレディテーション(取材認可)を受け取るためだ。海外での取材時は事前にどれだけやり取りしていようが、いざ現場の受付に行くと「ん、本当に申請した? ここには(取材許可証)ないけど…。ごめん、ごめん、隣の席にあったよ」なんて冷や汗をかくようなことがザラにある。ただ、さすがはCLのファイナルだ。つつがなく手続きを済ませ、ロンドンの街に繰り出した。

 一雨ありそうな天候、イングランドサッカー界が誇る聖地、そして美しい街並みを堪能し、すっかり気分は英国モードだ。それが翌日、ウェンブリーの最寄り駅に降り立った瞬間にガラリと一変した。ドルトムントの黒と黄のユニフォームに身を包んだ若者たちが、ビール片手に大音量でチャントを響かせている。バイエルンの燃え盛るような赤を身に包んだ初老の男性は「ミュンヘンから自転車で来たんだぜ」と鼻高々だ。ウェンブリー周辺はすっかりドイツ一色に染め上がっていた。

頂上決戦がドイツサッカー界に与えた計り知れない恩恵

 ドイツ勢初の同国対決となった2012-13シーズンのCL決勝は周知の通り、バイエルンの12シーズンぶり5回目の欧州制覇を飾り幕を閉じた。マリオ・マンジュキッチのゴールで先制し、イルカイ・ギュンドアンのPKで一度は追いつかれるも、終了間際にフランク・リベリのパスを受けたアリエン・ロッベンの一撃で勝ち越した。まさに“一進一退”の攻防を繰り広げ、バイエルンのマヌエル・ノイアー、ドルトムントのロマン・ヴァイデンフェラーが好守を連発し、手に汗握るハイレベルなゲームを演出したのが強く印象に残る。

 世界に改めて「ドイツと言えば、ゴールキーパー」を印象付ける一戦になったし、バイエルンのユップ・ハインケスとドルトムントのユルゲン・クロップという両監督が完成させたボールを支配する力がある上、素早いトランジション(攻守の切り替え)や苛烈なプレッシングを武器とするサッカーは、それまでポゼッションサッカーが礼賛されていた欧州サッカー界に一石を投じた。その衝撃の大きさは後年、酒井高徳が口にした「今(グアルディオラ)のバイエルンなら何とかなる気はしますが、ハインケスのバイエルンはもうどうしようもないほど強かった」という言葉からも窺えるだろう。

 ドイツサッカー界がブンデスリーガを代表する2クラブの頂上決戦から受けた恩恵は計り知れない。直後の夏に元々決まっていたジョゼップ・グアルディオラのバイエルン監督就任というエポックメイキングな出来事もあり、以前にも増して世界の目がブンデスリーガに向けられるようになったのだ。ドイツ代表が翌年のブラジル・ワールドカップ制覇を成し遂げられたのも、当時バイエルンのフィリップ・ラームやバスティアン・シュバインシュタイガー、トーマス・ミュラー、ノイアーなどがビッグイヤーの獲得で自信を深めたのが大きかった。

プレミア勢同士の決勝がイングランド代表を栄冠に導く可能性も

 CL決勝での同国対決がそれ以外と一線を画するのは、互いに手の内を知り尽くしている2チームが激突すること。国内リーグ、あるいはカップ戦で何度も顔を合わせている同格の相手との一戦で、戦術的な奇策を講じるのはリスクが大きいように思える。それは明らかに力が見劣りするチームが格上の意表を突く場合にこそ有効だろう。実際、今シーズンのドルトムントはバイエルンとのアウェーゲームで、トップ下のマルコ・ロイスを最前線に配する意外な布陣で臨むも、0-5と完膚なきまでに叩きのめされた。

 イングランド勢対決となる今シーズンの決勝に、リヴァプールとトッテナムが正攻法で臨むかどうかは蓋を開けるまで分からない。1つだけ確かなのは、プレミアリーグとイングランドサッカー界が大きな恩恵に与ることだ。今シーズンのCLを通じてさらに自信を深めたハリー・ケインやデレ・アリ(トッテナム)、ジョーダン・ヘンダーソン、トレント・アレクサンダー・アーノルド(リヴァプール)を中心としたイングランド代表が、来年に開催を控える『UEFA EURO 2020』で悲願の初優勝を飾っても驚きではないだろう。

文=遠藤孝輔

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