圧巻!力強い炎のうねり…魂をゆさぶる、新薬師寺「おたいまつ」

「おたいまつ」といえば、毎年3月に行われる『東大寺二月堂修二会(しゅにえ)』が有名ですが、奈良市にはもうひとつの「おたいまつ」があります。

夕闇に聞こえる読経が導く幽玄な行事『おたいまつ(修二会 しゅにえ)』開催

新薬師寺の最大行事である『おたいまつ(修二会 しゅにえ)』は、大松火に照らし出される本堂で、荘厳な読経の声が響いてくる一大絵巻であり、さながら天平の昔に戻ったような勇壮、幽玄な行事です。

この法要は、本尊薬師如来に、日頃知らずに犯している罪や過ちを悔い改めると共に、世界平和、国家の繁栄、五穀豊穣などを祈るものです。
新薬師寺は、天平19(747)年、聖武天皇の病気回復を願って光明皇后が建立されたお寺で、「新」とは「新しい」ではなく、仏の霊験が「あらたかな」の意味です。
本堂の円形の土壇中央に安置された薬師如来坐像(国宝)と、それを護持するように武器を振り上げ、髪を振り乱し、威嚇するように居並ぶ十二神将像(内、11体が国宝)を間近で拝観することができます。

午後5時、天平時代より伝わる声明が響く中、御本尊・薬師如来の御前に十一人の僧侶が出席して、すべての人々の罪を悔い改める「薬師悔過(けか)の法要」が執り行われました。この時、お釈迦様が身にそなえている32の優れた特徴を称える「三十二相(さんじゅうにそう)」が唱えられます。夕闇迫る頃、聞こえる読経が音楽のようです。

5時からの法要を終えると一旦下堂され、夜7時から二月堂の修二会と同じような大松明を道灯りとして再び上堂されました。お松明の支度がはじまるといやが上にも気分は高まっていきます。闇が深くなるほどに炎が人びとを惹きつけていきます。

「おたいまつ」が先導

圧巻!火の玉が火の粉をちらす「おたいまつ」の松明をまわし

午後7時になり、僧が本堂に入る際の道明かりとして、11本の「おたいまつ」が先導され、燃え上がる炎がすぐ目の前を通り、荘厳な光景です。

新緑の境内を行道

「おたいまつ」が、桜花満開、新緑の境内を行道すると、本堂の白壁がオレンジ色に輝き、まるで古代にタイムスリップしたようです。新薬師寺の修二会は、10本の「おたいまつ」と1本の一回り大きい「籠たいまつ」を使います。本堂の表が開扉され、1本ずつ「おたいまつ」に火が灯され本堂に奉納され、最後に「籠たいまつ」が奉納されます。

松明をまわし、火の粉を散らし赤々と本堂を照らす

本堂の前に来ると、松明をまわし、火の粉を散らし赤々と本堂を照らします。まさに、火の玉のように燃え上がり、目の前を通るので その火の熱さや、火の粉をじかに感じます。童子も、風向きによって、炎をまともに受け、危険と隣り合わせながら、神聖な儀式を務めていました。

僧侶は、本堂の前で足を止め、お薬師様に合掌し、入堂していきました。いつもは閉じられている本堂の3面の扉が開けられ、灯明に照らされた十二神将の姿とたいまつを同時に拝めます。

無数の灯明の明かりに薬師如来のお顔が浮かび上がる

続く本堂内陣で行われる「初夜法要」では、薬師如来に桃の生花と南天を飾り、無数の灯明の明かりに薬師如来のお顔が浮かび上がり、その中で唱えられる導師の祈り、全国の神々を呼び寄せる神名帳の奉読などが行われました。

松明をまわし

間近で見る力強い炎のうねり、赤く照らされた修行僧の表情。奈良の春、一夜だけの圧倒的な魂をゆさぶる、古都の奥深さをしみじみと体感しました。

M.Sawaguchi
ライター、輸出ビジネスアドバイザーとして活動中。
早稲田大学文学部にて演劇を専攻し、能、狂言、歌舞伎、浄瑠璃といった日本演劇、西洋演劇、映画について学ぶ。一方で、海外への興味も深く、渡航歴は30か国以上。様々な価値観に触れるうち、逆に興味の対象が日本へと広がる。現在は、外資系企業での国際ビジネス経験を元に、実際に各地に足を運び、日本各地発の魅力ある人、活動、ものについて、その魅力を伝えることで世界が結ばれていくことを願い、心を込めて発信中。


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